だが、村上はそうしなかった。放銃すれば、ラスはほぼ確定。さらに、この手から放銃せずにアガれる可能性が、果たしてどれだけあるのか。村上は現実から目を背け、夢を見ることはしなかった。
村上の表情に、葛藤がにじむ。彼が選んだのは、辛く苦しい道だ。真っすぐ手を進めて、残念ながら放銃してしまったとしても、諦めはつくだろう。けれどもそれは、自分を信じる仲間やファンを裏切る行為である。
2度目の親番は、身を切られるような痛みと共に流れていった。その痛みを受け入れて、村上はつないだ可能性を見る。
南4局、村上にこの試合で初めての先制テンパイが入った。ただ、が入れば高目三色、うまくハネ満ツモにでもなれば、白鳥を逆転しての2位フィニッシュも見えた。しかし、入ったのは三色が消える。このままリーチをしても、一発か裏ドラが、あるいは赤牌などが絡まなければ、3番手の優すら逆転できない。ある意味、皮肉なテンパイと言えよう。
南3局、あれほど苦しい選択をして目指したのは、こんなテンパイなのか。
・・・そうじゃない。
村上はを切った。テンパイを取らず、タンヤオでの打点アップを目指す。
結果を運に委ねるのではなく、自らの手でつかみに行く。それは村上の、ドリブンズの一員としての、矜持を示した一打だった。
たとえ、結果にはつながらなかったとしても。
アガリも放銃もなく、ラスを押しつけられた一戦。結果が欲しい村上に、Mリーグの舞台はまたも困難と苦痛を用意していた。悔しくないはずがない。
しかし、それでも村上は前を向く。最善を尽くした先に、求める結果があると信じて。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。