多井隆晴でも止められなかった 海の底で藻掻きながら それでも魅せた最速最強の矜持【Mリーグ2022-23観戦記2/10】担当記者:後藤哲冶

が、よりによってハイテイ手番になって、2人に通っている共通の現物が無くなった。
多井視点を見てみよう。

【3ソウ】が4枚見えていて【1ソウ】【2ソウ】がノーチャンス。【3ピン】が4枚見えていて【2ピン】がノーチャンス。
あとは字牌の【北】は1枚切れで東城には通っている。選ぶならこのあたりだろうか。
中スジの【6ソウ】も候補に入るかもしれないが、【赤5ソウ】含みのカン【6ソウ】などは十分に出てくる。

これは【1ソウ】【2ソウ】を切りたくない理由にもなってくるのだが、瑠美の最終手出しが【3ソウ】で、その前に切っているのが危険牌のドラ【1マン】であることから、この【3ソウ】は手牌に関連していることの方が多そうに見える。
すると【1ソウ】【1ソウ】【3ソウ】からの【3ソウ】切りリーチや【3ソウ】【5ソウ】【7ソウ】からの【3ソウ】切りリーチは十分あり得るため、【1ソウ】【6ソウ】は候補から外れそうだ。

字牌で1枚切れの【北】か、【2ソウ】【2ピン】か。
多井目線ここでしたくないのは親の瑠美に対する放銃だった。
東城とはかなりの点差が開いてしまっているが、瑠美には届きうる範囲内。
だからこそ親番の瑠美に放銃して点差を開かせたくはない。

であるならば、選ぶのは残った候補の中で瑠美に唯一通っている牌――

【2ピン】
これがなんと東城のアガリ牌。この半荘初めての放銃は、多井から東城への5200となった。

思わず多井の表情が歪んだ。
東城の持ち点を考えると、愚形でのリーチは少し考えにくく、【2ピン】のシャンポンでリーチに来るケースは想定しにくい。

この列挙した思考のプロセスが多井の中で行われたかはわからないし、当然もっと多くの情報を整理して多井は2pを選んでいる。
とにもかくにも10回に1回……いや、100回に1回当たるくらいの牌であったことは事実。

この不運がそのまま尾を引いたかのように、多井はここからも苦しい戦いを強いられることになる。

迎えた親番は、瑠美に一旦取ったテンパイの2枚切れ【9ピン】をツモられ呆気なく蹴られてしまい。

南2局ではなんとか初アガリを掴みとったは良いものの、これは1000点で着順を上げるには至らず。

配牌もツモもなかなかかみ合ってくれない中での南3局

この【9ソウ】をチーから発進。
目下ライバルのたろうの親番とはいえ、多井が現状打点が低い手で、タンヤオや役牌ではない【9ソウ】からチーをするのは珍しいように思う。
しかし、この【9ソウ】はドラ表示牌も含めるともう3枚目であり、ここを仕掛けた後なら万が一【白】が出なかったとしてもチャンタで役を求めることができる。さらに言えば、現状こそ確かに打点はないが。

このドラ【1ソウ】の縦引きだけで、一気に満貫手へと化ける……!

【白】【1マン】と鳴けて瞬く間に満貫テンパイ。【9マン】が2枚切れであること、【1ソウ】をツモっても打点が変わらないことから、ここはペン【7マン】にテンパイをとった。

苦しい配牌を見事育て上げて満貫に。これをアガればなんとか3着目に上がることができる。

が、これも実らない。
たろうに追い付かれ、1500点の放銃。
苦しい展開は、まだまだ続く。

南3局1本場

多井がペン【3マン】を引き入れてテンパイ。
このイーシャンテンに構えたタイミングではリーチの予定だったはずだ。
浮き牌を残さず、愚形フォローの牌を残したことからそれは伺える。
しかし、この直前に【7ソウ】が打たれ、2枚切れになってしまった。

この日初解説となった麻将連合の忍田幸夫も、「それでもリーチじゃないですかね?」とコメント。
外す選択肢もあるが、浮き牌【2マン】であまりくっつきとして優秀ではない。
点棒の無いラス目であることからも、リーチに行く打ち手が多そうな場面。

それでも多井の選択は「外し」だった。
どんなに絶望的な状況であっても、無理な勝負に身を投じて自滅することはしない。
それが“最速最強”の矜持。

打点もアップする嬉しい【赤5マン】を引き入れた。
これで次の愚形テンパイは勝負になるか……

多井が手牌の理牌を変えていた。カン【4マン】はチー。【2マン】【5ソウ】はポンの予定だったのかもしれない。
そして更に【3ソウ】を引いたことで345の三色も見えた。
ペン【7ソウ】でリーチを打っていたら、見ることのできなかった伸び。

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