それでも彼はテンパイを外した　だってあいつは、園田賢　最後まで――できることは全部やる【Mリーグ2022-23観戦記3／17】担当記者:後藤哲冶

それでも、それでも園田賢はテンパイを外した。
麻雀のゴールは、テンパイではなくアガリだと、良く知っているから。
アガリを見るからこそ、外す。後退しているわけではない。危険牌を切り飛ばしながら、ボロボロになりながら、それでも前へと進む、決死のテンパイ外し。

そうして引き入れた牌は――

赤く燃え滾る、……！
という危険牌を切り飛ばし、たどり着いた満貫テンパイ待ち。
寸分の迷いもなく、園田が切った牌を勢いよく横に曲げる。

ペンは２枚しか山に残っていなかった。
リスクを負って、打点も待ちも昇華させ、先制リーチの堀よりも待ちの枚数は上回っている。

もし、麻雀に、Ｍリーグに。シナリオというものがあったなら、間違いなくここは園田の勝ちだろう。
一発でを引いて、3000、6000をツモアガり。チームにトップを持ち帰って希望を繋ぐ。
なんて劇的で、感動的なドラマだろう。

しかし――麻雀にシナリオは無い。

めくり合いの終盤、持ってきた。

小さく園田が首を横に振った。
いいや違う。自分の選択は間違ってなんかいないんだ、と己を鼓舞するかのように。

事実、園田の選択は正しかった。リーチ時点、は山に２枚しかなく、は４枚あった。

「勝たせてくれ」

そんな悲痛な園田の叫びが、聞こえてくるようだった。
第1試合に丸山がトップを持ち帰ってくれた。なんとかして自分も望みを繋げたい。
その一心で、園田が山に手を伸ばす。

そのめくり合いの、結果は――

非情な現実が、そこに横たわった。

「はい」と、静かに園田が返事をする。
もしテンパイしたあの時、仕方ない、とこうするしかないと、言い訳してペンでリーチを打っていたならば、園田はアガっていた。
そんな皮肉が、あっていいだろうか？

……痛みにこらえながら、園田は前を向く。まだ終わっちゃいない。

最後の親番だ。

南３局。園田の配牌。
ドラこそ対子だが、形は良いとは言いにくい。タンヤオにも行きにくい牌姿だ。

を重ねて、打。もうメンツ手は断ち、対子手に絞った。
上手くいけば四暗刻まで見える。

を持ってきて、ツモ切り。
はチートイツになった時に優秀な牌だが、場に字牌が高い。
逆にマンズの中ほどは縦重なりも期待でき、万が一のメンツ手のルートも残せる。

今日何度目だろうか。堀に先制リーチを打たれる。
堀もトップが欲しい。今シーズンは思うような結果が残せていない堀もまた、この試合に賭ける想いは強い。
カン２ｐでも、ツモればトップに大きく近づく。

甲高い音が、卓に響く。同巡、後がない園田が追い付いた。
良いと思っていたを重ねて、単騎で迷わずリーチ。
待ちを選ぶ猶予はない。字牌が必ずしも良い待ちとは言えないこの状況であれば、自信のあったマンズで即勝負。
ツモれば一気に状況を打開する6000オールからだ。

待ちの枚数は１対３で園田の分が悪かったが、が他家に流れ、待ちの枚数は１対１のイーブンになった。
南１局では待ちの枚数が多かったにも関わらず、負けてしまった。
今シーズン何度有利なめくり合いで負けたかわからない。

だからこの一回。
やれることは全部やったから。
勝たせてくれと手を伸ばす。
その伸ばした手は――