その男【暴れ熊】につき――卓上の暴君・瀬戸熊直樹は 最後まで攻めの手を緩めない【Mリーグ2022-23セミファイナル観戦記4/14】担当記者:後藤哲冶

事実、瀬戸熊に【發】が重なっていた。
役牌を残す手組にしていたら、捉えられたかもしれない牌。
しかし瀬戸熊はこれを痛いとは思わないだろう。
この日解説を務めた赤坂ドリブンズ園田賢も、「瀬戸熊さんがこれで【發】のみ1000点をアガるイメージがない」と口にしていた。

確かにこの【發】を捉えて1000点を細かく刻む選手もいるだろう。
けれど、この配牌をもらって瀬戸熊がまず第一に目指したのは――

赤を引いて、そしてリーチをかけて裏を乗せての2000、4000……!
このツモが効いた時のメンゼン高打点を逃さない。
これが雷電の麻雀なんだと言わんばかりのツモアガリで、点数は4万点を超えて親番を迎えることに成功。

そして今日の瀬戸熊はここからが強かった。

東3局。まずは赤1の【6ソウ】【9ソウ】リーチ。2枚しかなかったアガリ牌を一発でツモって4000オール。
自身の点棒は5万点を超え、1本場へ。
ゆっくりと配牌を理牌すると……

この好配牌……!
まだいける。そう瀬戸熊が思ったかはわからないが、第1ツモを持ってくるその手に、いつもより力がこもっているように見えた。

そんな好配牌の瀬戸熊だったが、この局の先制テンパイは寿人だった。
タンヤオドラ赤のカン【3ピン】テンパイを、寿人はダマ選択。
瀬戸熊が1つ抜け出して、それ以外の3人の点数が拮抗している。
迷わずリーチに行く局面が多い寿人も、ここは5200の価値が高いと判断。

そうして打ち出された【4ソウ】だったが、瀬戸熊は一切の躊躇なくスルー。
【4ソウ】はチーしても5800にしかならない。瀬戸熊が欲しいのは――

自力での【7ソウ】引き……!

「リーチ」

低く朗々とした発声が、その場の空気を凍らせた。

【2マン】も引き入れて高目三色テンパイまで練り上げたこの手を、迷わずにリーチ宣言。
高目ならダマでも跳満だが、その判断に迷いはなかった。
引ける。
そう確信しているかのようなリーチ宣言に、実況解説席も思わず息を呑む。

しかし他家も黙っていない。
岡田が瀬戸熊の入り目【7ソウ】を一発で切り飛ばして追っかけリーチ。

寿人も元々テンパイだった所から【7マン】【2ピン】と押して待ち変え、カン【5ピン】のテンパイをキープ。
瀬戸熊の親を落とさんと、2人がかりで止めにかかる。

岡田に追っかけリーチを打たれた直後、瀬戸熊が軽く腕を捲った。
2人に押し返された。それでもいい。
どう転んだって、今日の勝者は――

俺だ!
安目の【8ピン】ではあるものの、それでも6000オール。
神出鬼没の暴れ熊が、卓上をこれでもかと荒らしまわる。

これで点数は7万点を突破。

2本場は亜樹の1000、2000で親番こそ落ちるが、瀬戸熊は親が落ちた後も攻めの手を緩めない。

続く東4局。6巡目に寿人のリーチを受けるが、瀬戸熊はここでチートイツドラドラのテンパイ。
【2マン】【5マン】はどちらも寿人のリーチには通っていないが……

【5マン】を、静かにプッシュ。
現状3着目で子番の寿人のリーチに放銃してしまったとて、局自体は進む。
ならば【5マン】を押して他2人からの【2マン】を捉えての加点も狙っていこうという判断。

アガリにこそ結びつかなかったが、その鋭い爪は7万点持って尚、他3者の首筋にあてがわれている。

そしてこの局とは対照的な局面が、南2局にあった。

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