局が始まり初打に切ったを因幡にポンされた瞬間。
歌衣は冷静に今の状況を確認していた。
「ねるちゃんが速度上げてくれるのは助かるな」
トップ目に立った歌衣からすれば、因幡や渋谷が中打点程度でアガって1局消化するのは悪くない。
最悪なのは渋川に大きく加点されることなのだから。
「でもここで、(低打点を)振り込んでそれでトップ狙いってのは、あんま俺っぽくないよな」
そう口にしつつ、歌衣は自らの手を進めていく。
確かに、まだ自分の位置はトップ安泰とはとてもではないが言えない点数。
因幡と渋谷が仕掛けたが、それがどの程度早いのかはわからない。
その間に渋川からリーチがきて、ツモられたら逆転を許してしまうわけで。
だからこそ歌衣は自らのてもしっかりと進めていた。
8巡目、歌衣が恐れていた事態が起こってしまう。
2着目渋川からのリーチ。
そして自らの手は、を引いたことで三色ドラ1の価値あるイーシャンテンになった。
通っている牌は、が1枚だけ。
「いったれ!」
強くを打ちぬいた。
を引けば大物手になる。それこそ、決まればトップがほぼ確定するような手だ。
渋川にはが通っていて、を通せば次に出ていくも中スジになって通しやすい。
しかし、これが通らない。
渋川からロン。
裏ドラも1枚乗せて8000点。歌衣からすると渋川に逆転を許す痛い失点。
「いでぇ……! ……まぁでも、後悔はないかな!」
たしかに放銃は痛い。
けれどこれは、勝負しきった結果。
歌衣はすぐに前を向いていた。
歌衣の条件は渋川から6400以上の直撃か、跳満のツモ。
手牌はを引いてきたところ。
愚形であるを外すのがセオリー。さらに言うならば、外側の牌であり因幡の現物であるを残してを切るのがセオリーだが。
「234がある。化けるかも」
跳満ツモの可能性を最後まで追う、切り。
より丁寧で、繊細な一打。
端々に見える歌衣のこういった一打が、成長を深く感じさせてくれる。
三色にならずとも、ドラを引いてあとは一発や裏などの偶発役が絡めばトップが見えるが――
「にいな、仇はとったぞ……!」
そんな僅かな歌衣のトップへの夢を阻んだのは。
奇しくも、ドラフト会議のあの日。
「チャレンジ」と称して、歌衣メイカを1位指名した、渋川難波だった。
トップを獲得したのは、ついにチーム初トップとなったグラディウス渋川監督。
インタビューでも、嬉しさがにじみ出ていた。
「ここからが開幕」渋川はそう口にした。
まだまだ巻き返せる。監督自ら示した可能性に、選手達も俄然やる気が出たに違いない。
3着は1戦目に引き続きなかなか勝負手が入らなかった因幡。それでも4着を回避しているのが、チームポイントをプラスに保つ良い要因になっている。
4着に、渋谷ハル。
東1局以降なかなか手が入らず、放銃こそ最後の1回きりだが、ラスとなってしまった。
しかし1戦目の大きなトップを考えれば、まだまだプラスだろう。
そして2連続の2着となったのが、歌衣。
トップこそ逃したが、その魅力は存分に示した内容だったと思う。