柴田の気配はもちろん他家も感じていた。
岡田が最後の切り番で安全牌が尽きる。
筋のを手にしたとき、一瞬岡田の手が止まった。
ジッと息を潜めて反撃を伺う獣の気配を感じ取ったのかもしれない。
タンヤオ・ホウテイ・ドラ1の5200。
もし柴田がリーチといっていたら、岡田はおそらく松ヶ瀬の中筋で柴田の現物であるを切っていた可能性が高い。
ともすれば松ヶ瀬のダントツとなりそうな展開だったが、柴田の欲を殺したダマテンにより1試合目はもつれた。
「欲を殺さないと、運が逃げる」
とは、決してオカルトではなく、勝ちたいという気持ちが判断を鈍らせるという至極当たり前のことを言っているのかもしれない。
柴田はその後も4000オールをツモるなどトップの松ヶ瀬まで肉薄する場面もあったものの、2着で1試合目を終える。
第1試合
松ヶ瀬 +59.0
柴田 +4.9
岡田 -15.8
滝沢 -48.1
こうして柴田にとって、長い2試合目が始まった。
2試合目
東2局、まずは最初の親番で
イッツードラ1のペンリーチで抜け出しを図る。
これを受けた松ヶ瀬の手牌。
安全牌がないままイーシャンテンになっている。
松ヶ瀬としては1戦目トップを取っているだけに、2戦目はよほど大きなラスを引かない限り通過できる。
もしも心が守備に傾いていたら、筋になっているに手が伸びてもおかしくはなかった。
だが、松ヶ瀬は
無筋のを打ち抜いてイーシャンテンをキープ。
確実に通るのであればを切っていたかもしれない。
松ヶ瀬は語る。
「先にリスクを負うことで将来のリスクを軽減できる」
ここで放銃してしまってもまだまだやり直す時間はある。
どうせ確実に通る牌がないのであれば
ここで勝ち抜きを決定づける抽選を受けるべきではないか。
松ヶ瀬は、柴田のアガリ牌を引き込んで猛然とリーチで追っかける。
その2人のリーチをかいくぐってテンパイを入れていた岡田が
・ドラ1の500/1000でかわしたのだった。
がっくりと肩を落とす柴田。
親番で勝負のリーチを打っても、松ヶ瀬に追いつかれ、岡田にかわされてしまった。
届きそうで届かない。
麻雀とはいつもそうだ。
柴田は今でこそ鳳凰位に君臨しているが、5回目の決定戦でようやくその座を射止めることができたのだ。プロ入り22年目のことである。
他にもあらゆるタイトル戦で決勝戦に残るものの優勝には手が届かず、「無冠の帝王」とも呼ばれていた。
その柴田にさらなる試練が訪れる。
次局
中筋のを切って追っかけると…
滝沢の7700(リーチ・ドラ・赤)にストライク。
持ち点を13700点まで減らしてしまう。
だが、柴田を応援する声は止まなかった。
「連盟の総大将がこのまま終わるわけがない」
「こっからがHIROさんの真骨頂よ」