鈴木たろうがゼウスである由縁
文・坪川義昭【火曜臨時担当ライター】2023年12月26日
第2回戦
東家:二階堂亜樹(EX風林火山)
南家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
西家:猿川真寿(BEAST Japanext)
北家:鈴木たろう(赤坂ドリブンズ)
この日、世間の話題は一点に集中していた。
プロボクサー井上尚弥が史上2人目の2階級4団体制覇達成なるか否かである。
日本中、いや世界中が注目する一戦を見事制して4本のベルトを巻いた井上尚弥はボクシング界の神と評された。
ここにもう1人──
麻雀界の神と呼ばれる男がいる。
【ゼウスの選択】こと鈴木たろうだ。
2005年に日本プロ麻雀棋士会から所属を日本プロ麻雀協会に移し、7年連続9回の雀王決定戦進出。3連覇を含む4度の雀王戴冠と今後破られることがないであろう実績を残し続けた神である。
現在は最高位戦日本プロ麻雀協会に移籍し、来期からは最高峰リーグのA1リーグを舞台に闘うことが決まっている。
今や競技麻雀で主流となっている仕掛けても高い手を作る思考や、アガリ牌が出てもアガらないという選択、麻雀の選択において『欲張り』なんて言葉を流行らせたのも鈴木たろうなのだ。
日本プロ麻雀協会に所属していた約15年間で鈴木たろうは麻雀界の文化を変えていき、常にその中の最先端の技術を持ち合わせていた。
巷でも仕掛けて手牌がバラバラな状態を見ると『たろうさんみたいな仕掛けだなぁ!』なんてよく言われたもので、誰もが使ったことのあるフレーズではないだろうか。
ここ数年たろうはMリーグでの成績で伸び悩み、今期もやきもきする展開が多かった。
こんな成績に収まるような選手じゃないということはプロ選手もファンも全員の共通認識だと思う。
東3局
まとまった手牌を貰い一本道を突き進む。
テンパイが入ったタイミングで分岐点が訪れる。
先制でテンパイが入った時点でリーチを打てば期待値は当然プラスなのだが、周りのスピードを察知し時間に余裕があると判断したたろうは手替わりを待つ。
ここでヤミテンにしていても変化を待っているならば、イーシャンテンと同価値と判断して手牌を再構築しはじめる。
こうなれば自信のリーチというわけだ。
これこそゼウスの真骨頂である欲張り打法である。
最初の段階でも期待値がプラスではあるが、もっとプラスになることにチャレンジしていくたろうらしい選択だ。
東4局
まずは亜樹が先制リーチと出る。
親番のたろうもテンパイが入ったものの、は既に2枚切られており、飛び出す牌もドラのと苦しいテンパイだ。
ここは一旦現物のを切っていくと思っていた。
残りの巡目、この後どの牌を引いたとしても殆どがフリテンのテンパイになる。
そして何よりここでオリを選択した場合、点棒はほぼマイナスになる。ならば加点の可能性にかけた方がマシという選択だ。
理論はわかるが、なかなか出来る選択ではない。
すると本手を育てていた松本から3軒目のリーチが入ってしまう。
これにはたろうも肝を冷やしたか。
ここで猿川の手が詰まってしまう。
何をどう考えても1番通りそうなのはだ。
吸い込まれるかのように河に放った牌にかかるロンの声。
オリジナリティ溢れる7700点のアガリでたろうはトップ目に躍り出る。
南2局