東2局1本場
松ヶ瀬が七対子単騎テンパイの中、内川からリーチを受けた一コマ。
リーチ者の捨て牌には現物のがひっそりと佇んでいるが、一発目に持ってきたのは全く通っていない無筋のである。
強気に現物待ちにするか、あるいは単騎に変えるのか。
その選択が注目される中、松ヶ瀬が選択した牌は
そのどちらでもなく
トイツ落としによる後退であった。
現物のを打たなかった焦点は上家の存在、多井隆晴である。
試合後の舞台裏インタビューで松ヶ瀬は
「本当は単騎でリーチ行きたかったんですが、多井さんがほぼほぼポンテンで勝算のありそうな雰囲気。打点も高いか分からないし、も放銃になりうるので。」
とコメント。
また2巡目の所で
ここから七対子一本に絞りを残せていたら、リーチが入る12巡目に多井からロンアガリできていた点も考慮したのかもしれない。
実際に多井は打点2,000ながらもテンパイで、待ちも山に5枚眠っていた。
同じ団体の先輩であり、その手の内が分かっているからこそのリスペクト・オリ。
更にもも山に残っていないので、松ヶ瀬の読みの精度や押し引きも見事であった。
逆に、こう言った見えない心理戦を駆使するのも多井の特徴の一つである。
例えば
瑞原がしっかりと手を組み、そして鋭い仕掛けで局を1,000点で捌いた東3局
放銃者は現状ラスの親番・内川。
リーチ宣言牌が通らず、点数以上に悔しい表情を見せているのが印象的だ。
実はこの局にも多井マジックが隠されていたのである。
こちらは手痛い親落ちとなった内川の手牌。
前巡にトイツの落としの最中に瑞原の仕掛けを受けた場面。
比較的安全なを持ってきてと入れ替えると思ったが、をツモ切りとした。
内川
「(瑞原さんに二度受けのがありそうなのはもちろん)多井さんがを一枚余らせていたのと、本手なのか“ブラフ”なのか分からなかったので。また、場に高いピンズ待ちも残っていてアガリはキツイかなと思い1巡切り遅れちゃいましたね。」
多井さん!?
皆さんお気づきになったでしょうか。
“が余った”と表現された該当箇所がこちら。
終盤に差し掛かる12巡目、多井の牌姿である。
ドラドラではあるが、まだリャンシャンテンと一歩遅れを取っている所。
そこで多井は周りのテンパイ気配に細心の注意を払いながら、場に危険なを打ち出す。
ソウズとマンズを並べた切り出しと直前の手出し、そして切りのコンビネーションによる見えない“ホンイツテンパイ”という圧を掛けていたのである。
麻雀とは人より早く、そして高くアガるゲーム。
その反面として、いかに相手にアガらせないか。
自身のアガリが難しい事を考慮すると、1,000点の横移動で他者の親を流せたのは期待値的にプラスだろう。
そして、この半荘の決まり手となった局も
「相手の心理を突いた選択」
それは、さきほど紹介した東2局1本場の別のストーリーの中に隠されていた。
こちらは多井の仕掛けが入った直後の瑞原の切り番である。
のポン出しと4巡目のが意味するもの。
それはマンズが雀頭のの裏筋待ちという典型的な河。
しかし、それは全くの“ブラフ”
その正体は、先切りによる多井の罠であった。