渋川は、最後まで徹底していた。南4局、勝又にを鳴かれた直後、1シャンテンで選択。
場の状況がこう。
勝又はポン出しで、またぎになるはロンと言われてもおかしくない牌だ。もしホンイツになっていたら、放銃時の打点は3900からで、トップ陥落となる。
ただ、一方で打点条件のある多井がを鳴いているのも気になっていた。もし超高打点を振り込むようなことになれば、当初のもくろみが土壇場でご破算になってしまう。
実際に、多井はドラのを複数抱えるホンイツトイトイで、倍満まで見える手になりつつあった。
多井の高打点、そして親の伊達のリーチだって飛んでくるかもしれない。それを阻止するには、今勝又に打ち込んで試合が終わってもいい。勝又がホンイツならどうせツモられれば逆転されてしまうのだから、放銃したとてほとんど同じこと。
もちろん自分のアガリも残しつつ、渋川はを切った。
勝又、トップ目からの直撃で逆転トップ。平時ならばいわゆる「デバサイ(出場所最高)」、悔しくて歯ぎしりしてしまいそうな放銃だろう。
だが、その表情に悔恨や苦悩はない。
渋谷ABEMASの望みを刈り取るその一打は、「魔神」渋川難波が自らの仕事を完遂するための、最後の仕上げだった。
全ては、ファイナル進出のために。
今は対局場を赤く染めさせておけばいい。
ファイナルでは、この場所を桜色に染め上げてやる。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。