次巡、ツモ。シンプルにから切ればチートイツの1シャンテンだった。バカにしやがって。
初志貫徹、をポンした岡田は、チーできるをスルー。鳴けば手は進むがホンイツは消え、ドラを持っている相手に安手を見透かされて攻め込まれることも容易に予想できる。高い手を目指す進行を見せることで相手の動きを止め、自分がアガる時間を作る。これも戦略のひとつだ。
だが、先にテンパイしたのは松ヶ瀬だった。待ちでリーチ。
さらにを暗槓する。岡田も欲しい牌だったが目に見えてなくなり、一気に苦しくなった。
13巡目、岡田の手はホンイツ1シャンテンという形になっていたが、浮いていたソーズがくっつく。は現物だが岡田目線で2枚しか見えておらず、リャンメン待ちに当たりうるは少々切りにくい牌。
打点的見返りを重く見てソーズを切り飛ばす選択もあるだろう。しかし岡田はノーチャンスので受けの選択。
ポンでテンパイだが、フリテン。
ただ、直前には立て続けにが切られて4枚見え、ノーチャンスのは切りやすい牌になっていた。先に教えてくれ、と言いたくなる気持ちも分かる。
さらにリーチの松ヶ瀬が切り。もしソーズを押せていれば、ここで満貫の出アガリだった。
岡田曰く、「普段のバランス」。劣勢下において、より安全なルートを選びつつ、最低限のアガリ手順だけは残しておく。おそらく、結果が安定するのはこちらの選択だろう。リスクを負えば、振れ幅も必然的に大きくなる。
ただ、それが裏目に出るのも麻雀である。結果的にアガリを逃し、松ヶ瀬の満貫ツモを親かぶりして最後の親番を終えた。
オーラスを迎えたとき、岡田は3着目からも3万点以上離れたラス目だった。もはや敗北は確定的と言ってもいい。
しかし、この舞台に立つのであれば、最後の最後まで手を抜くことは許されない。できることをやらないのは、真剣勝負の世界において最も罪なことだ。
南4局1本場では松ヶ瀬の親リーチに対して2シャンテンからを仕掛けて前進。
テンパイへとたどり着き、アガリきって試合を終わらせた。
タンヤオドラ赤、1000-2000は1100-2100。
着順は変わらず、ただ傷口を広げないためのアガリ。
たとえ状況は厳しくとも、今やるべきことを、岡田は遂行した。
取り上げた局の選択についてはおそらく、より良い結果になる可能性が高いものを選んでいたと思う。しかし、良い選択を選んだとしても良い結果になるとは限らないのが麻雀というゲームであり、岡田にとってはそこで翻弄されたような試合となった。
負け続けているという状況において、なんとも厳しい一戦ではある。
ただ、神は乗り越えられない試練を与えない、と言う。
今のこの苦境も、負けず嫌いで、麻雀に真摯な岡田なら、きっと乗り越えられるはずだ。
残した100点を手に、今は耐えるとき。
未来で美しい花を咲かせるために。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。