潜んでいた軍師
勝又健志が3人の主役を
飲み込んだ17局
文・うめきち【月曜担当ライター】2026年9月21日
この半荘の主役は誰だったのか。終局後、私はしばらく考え込んでしまった。
最初に舞台の真ん中に立ったのは、本田朋広だった。途中でその座を奪ったのは、竹内元太だった。そして誰もがどちらかが主役だと信じたころ、最後の最後にすべてを持っていった男がいる。勝又健志である。
開幕5日目、麻雀2chの第2試合。直前の第1試合では瀬戸熊直樹が100ポイントを超える大トップを取り、TEAM雷電は5戦3トップで首位に立っていた。雷電ユニバースからは「今年は雷電優勝」という威勢のいい声が聞こえてくる。もちろん、他のチームが黙って見ているわけがない。そういう夜だった。
第1試合
東家:石井一馬(EARTH JETS)
南家:勝又健志(EX風林火山)
西家:本田朋広(TEAM RAIDEN / 雷電)
北家:竹内元太(セガサミーフェニックス)
実況:山本亜衣 解説:近藤誠一
髪を切った軍師の2巡目リーチ
勝又にとって、昨シーズンは苦しい一年だった。レギュラーシーズンの成績はマイナス398.2ポイント。ぶっちゃけ、あの数字を思い出すだけで、見ている私の胸が締め付けられる。だから今季の開幕は、勝又を見る目に自然と力が入った。
画面に映った勝又は、いつもより髪が短く見えた。
生まれ変わるための断髪式だったのか、単に床屋へ行っただけなのか。それは知らない。ただ、答えは東1局に出た。
親は一馬。前回トップの一馬は、配牌からいきなりの大物手を手にしていた。
配牌でドラが4つ。残りの形も整っている。
その目の前で、勝又が2巡目にリーチと出たのである。
2巡目。本来ならまだ手を育てる時間だ。それを勝又は待たなかった。一馬はこの手では簡単に降りる男ではない。だが私が一馬なら、大物手にいきなり冷水を浴びせられて、ちょっとがっかりする。
そして、勝又がツモ。
リーチツモ白三暗刻裏ドラ2と裏ドラまで乗ってハネマン、3000・6000。第1試合で瀬戸熊の大トップを許した永井孝典の仇討ちとばかりの一撃だった。
勝又は点棒を持たせるとなかなか落ちてこない。だから他の3人にとっては、嫌な展開と思っただろう。開幕直後、大物手の親を尻目に、先にリーチの声を出す。去年の悪い数字を背負った人間の選択とは思えないほど、それは軽やかで、肝が据わっていた。
もうひとつの新しい風
この日は、実況席にも新しい風が吹いていた。今季から公式実況となった山本亜衣が、初実況を務めたのである。
京都府出身の声優で、プロ雀士としては日本プロ麻雀協会に所属している。声質がとにかく心地よく、解説とのやりとりも実にスムーズだった。実況が自然でいい、面白い、といった声がコメント欄に並んでいた。
クマクマタイムを継ぐ男
最初に主役の座に座ったのは本田だった。
東3局2本場、本田の親番。3人テンパイの競り合いを制してツモ、しかも裏ドラまで乗せた。
リーチツモ裏2。親マンの4200オール。
この日の本田は、とにかく裏が乗る。2本場のアガリを皮切りに、連荘は4本場まで続いた。
私には、本田が「僕にもクマクマタイムができるんです」と言いたがっているように見えて仕方なかった。もちろん私の空耳である。第1試合で同じ雷電の瀬戸熊が見せた大爆発を真似しているのか、それとも二代目クマクマタイムの襲名を狙っているのか。
だが本田には、笑ってばかりもいられない理由がある。開幕式のインタビューで、ネット上の順位予想では雷電が下のほうにばかり並んでいると語り、成績で見せつけてやろうと言っていたのだ。ならばこの連荘は、ただのラッキーではない。順位予想への、卓上からの返信である。
ひっそりと届いた12000点
南2局、親は勝又。ここで勝又は、ピンフ三色ドラ1の満貫をダマテンに構えた。
声も出さず、リーチ棒も出さず、ただ静かに待つ。そこへ運悪く飛び込んでしまったのが一馬だった。12000点。
この一撃で、卓の構図がはっきり見えた。トップ争いは勝又と本田。3着争いは一馬と元太。私はここで、ようやく気づいた。本田が舞台の真ん中で声を張り上げる主役なら、勝又は幕の裏で台本を書き換えている演出家なのだと。
裏が乗る男に押した勇気
南2局1本場。その本田がリーチをかける。
勝又にとってトップを争う相手、そしてこの日ずっと裏ドラを乗せ続けている男が、リーチと言ったのだ。
そこで勝又は、押した。私なら降りる。だって、ここまで裏が乗りまくっている相手のリーチである。ヤバい予感しかしない。それでも前に出たのは、トップを争う相手だからだろう。ここで引いたら、本田の背中は二度と見えなくなるかもしれない。












