知名度ゼロから挑む秀才・園田賢のMリーグ黄金伝説【熱論!Mリーグ】担当記者:ZERO

熱論!Mリーグ【Tue】

知名度ゼロから挑む

秀才・園田賢の

Mリーグ黄金伝説

文・ZERO【火曜担当ライター】2018年11月13日

吹きすさぶ風もかなり冷たくなってきた夜、私は困っていた。

一回戦、ラス目の南家、鈴木たろうは

この手牌からを打った。

南場でドラはである。

「それはない」

Mリーグを観戦していてみなさんもそう思うことがあるだろう。しかし決めつける前にそのプレイヤーが何を考えてその選択をとったのか考える癖をつけてほしい。通常の牌理とは異なる選択は、必ずその人の意図が組み込まれている。観戦している我々よりも、その場に座っているプレイヤーの方がインプットしている情報は圧倒的に多いのだ。

しかし、である。ちょっと考えても

私にはこの打の意図はわからなかった。

そのを連打したときにふと思った。たろうはいきなりのトイツ落としを見せることによって、ドラなし赤なしのこの手牌を大きく見せ、相手の速度や打点を落とそうという意図があったのではないか…と。

 

「自分の手牌の効率を覚え、まっすぐ打てるのが中級者」

 

「相手の河から速度や打点を推測し、対応できるのが上級者」

 

である。しかしその上に

 

「自分の河が相手にどう映るかを考え、一番効果のある選択をとることができるのが超上級者」

 

と、言える。この対人戦略が誰よりも秀でているのが鈴木たろうであり、今回の主役である。

というわけで、たろうをメインに記事を書こうと思って観ていたのだが、そのたろうは極度の不調が続き、今夜も見せ場が訪れずラスのまま終わってしまった。

多彩な引き出しを持っていても、点棒がないとやれること(選択肢)は狭まっていく。

先ほどの連打という奇手も、ダントツのラス目がやったところで脅威はないし、軽く流されるのは不都合ともいえる。自然進行のメンツ手の速度を落としたり、トイツ手を見切ったりするほどの場面ではなかったと私は考える。(一晩寝て起きて考えたが、うっすらホンイツも見ていたのかもしれない。うーん深い!)

(茅森+69.4 萩原+5.6 白鳥-17.2 たろう-57.8)

 

たろうの素晴らしさを紹介するのは次回以降の記事にとっておくとして、今回の記事はどうしよう…そう思っていたら二回戦にこの男が登場した。

たろうのリベンジは俺に任せとけ!と燃える男、赤坂ドリブンズ・園田賢である。

たろうが

「Mリーグで実力を一番発揮できていない打ち手」だとしたら、

園田は逆に

「Mリーグでその知名度を一番上げた打ち手」

だろう。

2018年8月7日、ドラフト会議。

「最高位戦日本プロ麻雀協会 園田賢」

その歴史的イベントで最初に名前を呼ばれた男に、世間はざわめいた。麻雀プロの間ではその実力はすでに知れ渡っていた。しかし、名前を知らなかったファンも多かったかもしれない。なにせ21人中、「獲得タイトルなし」は園田だけだ。ところがMリーグが始まり、一番躍動したのがそんな園田だったのだ。園田の闘いを追っていこう。

本日の二回戦は、たろうの不調を引きずってか苦境からのスタートとなった。黒沢に4000オールをツモられた1本場。松本のリーチを受けて園田の手が止まる。

手詰まってしまったのだ。

の暗刻落としや筋のが打牌候補に挙がると思うが、実は松本のリーチ(画面左)に対して、茅森(画面右)が猛烈に押している。

そこで園田は茅森の現物のを選択した。一見松本のリーチに危険に見えるが、

松本はリーチの前巡にを切っている。

その時点では3枚見えており、

を先に打って固定するケースは通常より少ないのではないか…?という読みがあったのだと思う。またとにかくバンバン押している茅森の方が打点のあるケースも通常より高いと考えたのだろう。

こう言ってしまっては地味だが、麻雀は手詰まったときの選択が成績に直結するといえる。Mリーガーの中でもよく仕掛ける園田は手詰まる頻度も高いので、「マシな牌」を選択する能力が非常に高い。

この局は園田の一人ノーテンになってしまったが、

ともすればで放銃してしまうプレイヤーも多かったのではないだろうか。園田の守備力が光った。

2本場、その園田にチャンス手が入る。

赤赤のアガりたい手牌。何を切ってもロスが発生してしまう難しい手牌だが、

園田はここからを打った。

一見ペンを嫌っているようだが、

そのを引いたらなりを切って

ターツを残すだろう。

河を見るとはフリテンでも強いターツだ。

それでいてをツモってきたらタンヤオ変化も考えているのではないか。

はロスを最小限に抑えた素晴らしい選択だと思った。そして

テンパイ。赤赤だけにリーチか。しかし園田は

を縦に置いた。おや?っと思ったら理由を探す癖をつけるのだった。上家の茅森の河がソウズか国士かわからない捨て牌。10巡目にリーチをすれば、供託2本と2本場を取りに他家も押してくる可能性が高い。めくりあいに不利で、手替わりがそこそこあるからこそダマに構えたのだろう。これが6巡目だったら…茅森の捨て牌が違ったら…

ソウズがでなく

だったら…リーチに踏み切っていたのかもしれない。ほんのすこしの変化で選択は変わるものである。

このとき、すでにヤミテンに構えていた黒沢がリャンメンに手変わってリーチ。これはこれで恐ろしい。ヤミテンでマンガンあるからだ。ただ超上級者と相対するなら、こういう棒攻めは戦略としてあながち間違っていないと思う。

それはさておき、黒沢のセレブなリーチを受けた園田。追っかけるかと思いきや、ヤミテンを続行した。両脇は黒沢の親リーだけに今度はオリる公算が高い。捨て牌を見ても、上家・茅森は国士っぽくて、下家・松本は遅そうだ。つまり、出あがりのきかないデメリットは黒沢の捨て牌に対してだけとも言える。それならばひょっこりツモアガれるヤミテンに構え、親リーチに対して終盤不利と見たらオリる権利と、そして…

ツモ(ドラ)。この強烈な手替わりのメリットを重くみたのだろう。

待ちで文句なくリーチ。

見事3000・6000に仕上げた。

からの一連の手筋、そしてリーチ判断といい、園田の人生を感じた瞬間だった。

先日竹書房から発売された「麻雀プロMリーグ名鑑」(※Mリーグを楽しく観るなら必見の一冊、私も観戦記を書く際に必ず読んでいます)に、園田は秀才しか入れない名門・灘中学から灘高校に進学し、ミュージシャンを目指したり、浪人したり…とその後も、勉学・趣味・麻雀・家庭の狭間でフラフラと揺れる園田の人生が描かれている。

 

——一本調子にストレートを投げないのが園田の生き様であり、麻雀のスタイルもそうである。分かりやすくベタオリしたりしない。のらりくらりと、状況に応じて手を変える。そうやって、ずっと人生と麻雀界を生き抜いてきた。

(Mリーグ名鑑より抜粋)

 

はじめこれを読んだときはパッとこなかった。園田の仕掛けはマジックに見えたり、時にはフラフラしているように見えたりする。しかし実際は、秀才中の秀才が、多くの知識や情報をインプットし、局面に応じてそれをアウトプットしているだけなのではないか…?これまでの園田の麻雀を見ると、そう思えるようになってきた。

例えば東4局のこの選択。

この手牌からカンをチー。

をポンするとヘッド(雀頭)がなくなるので仕掛けない人はかなり多いと思う。しかし園田は敢えて苦境に身を投じるように仕掛けていく。そして今回は茅森の早いリーチを受けてまたしても手詰まってしまい放銃してしまった。しかし3900点を支払う園田の表情に後悔のあとはない。

敢えて苦境に身を投じることにより嗅覚は研ぎ澄まされ、読みや判断能力の精度も高まっていく。周りからはフラフラしているように見えるかもしれないが、園田は身に付けたバランス感覚と読みにより、これまでのMリーグでも一番多くの名場面を生み出してきた。

そしていよいよ南2局、またしても園田の名場面は積み重なっていくのであった。

まずトップ目の園田は局消化すべく

カンをチーしてタンヤオのテンパイ。

このタンキ自体は

茅森の一打目のからそこまで悪い待ちではないという感触だったという。そして秀才がその才能を存分に発揮する瞬間がきた。

上家・茅森の切ったをノータイムでチー。

としてタンキに受け、そして

300・500のツモアガリ。これは見た目以上に凄いので詳しく解説していこう。

まず、このは待ちとして盲点になる。

ただのチー待ちではなく、

が先に切ってある。

が先に切ってあってチーでが当たる形は、通常ありえない。

そして下家と対面が早い段階でを切っており、

は持ってなさそう。

その状況で上家がを切ってきたなら、

より良い待ちになる。

もしも下家と対面がを持っていたとしても、親である上家がリーチしたらかなりの確率で出るだろう。またそうなる前に危険な無筋をツモってきたらを安全に切ればよい。

ここまで計算してはじめてこの仕掛けは有効になる。通常、ツモ番を放棄し手牌を短くする仕掛けはご法度。ファンの方はこれを見て安易に真似しようと思わないことだ。園田の恐ろしいところは、これをあらかじめ考えていたところである。上の画像を見てのとおり、園田はすでにこの鳴きを想定して

と並べていたのだ!

正直、天鳳でもこれくらいの鳴きはよくみる。しかし、それは毎回鳴ける牌で止まってくれるからであり、これだけあらかじめメリットデメリットを計算し、出た時に鳴けるように準備できている人は稀だと思う。Mリーガーの中でも、この仕掛けができる人がどれくらいいるだろうか。一般の人には真似できない技術、という点においてはプロ中のプロの神髄を見た。それくらい凄みのある1シーンだった。

続く南3局、園田の親。2人リーチを受けた園田の手牌。

愚形含みの2シャンテン。

普通は何も考えずを抜いてオリる場面だろう。

しかし園田は通っていないを切って形を維持したのだ。

いや、たしかによく見直したらはまず通る牌だ。

は黒沢の現物であり、が4枚見えている状況で

と切っている茅森にで当たるパターンはない。しかし普通の打ち手なら2人リーチを受けたら脊髄反射でオリてしまうだろう。

1枚切れの南を掴んで現物のを抜く。

ここでも2枚切れのは切らない。こちらは当たる可能性がわずかにあるのと、松本の追っかけに備える意味もあるだろう。実際に松本からもリーチが入って場が沸騰する。なんと、この状況でも園田は思考を止めない。

カンをチー。このチーの真の狙いはテンパイ取りではなく、局を伸ばして少しでも横移動する確率を高めたかったのだと思う。3人リーチだと2人リーチよりも横移動の確率も高まる。そして3人目のリーチである松本は本手の可能性がかなり高い。都合の悪いのは茅森のアガリだが、その現象が起こる可能性が低いことを計算したのだろう。結果は恐ろしかった。茅森が黒沢に放銃したのだ。

もしチーがなかったら黒沢の跳満のツモアガリでトップを逆転されていた。この結果はたまたまだが、3人リーチという修羅場でも思考を止めずにやるべきことをやる姿勢は称賛に値すると思う。

こうして迎えたオーラス。一発逆転を狙うラス目の松本は2巡目にしてこの手牌。

ドラがなのでツモ次第で6000オールが十分狙えるイーシャンテンだ。対して微差のトップ目である園田はこの手牌。

ツモで一歩前進したものの、松本とは比べるべくもない速度差だ。

しかし園田は丁寧にを切ってタンヤオと役牌に照準を絞った。

狙い通りを重ね…

をポン。いつものように前に出る。目の前に40000点のトップボーナスがあるから当然のポンだ。そして

もポン。チーじゃないのはのちに選択肢を残すためだろう。

例えば赤を持ってきたときに入れ替えたり、

を入れ替えたり…などだ。

と持っているより

と持っている方が、選択肢が増えて手牌が柔軟になるということだ。そしてもう1つの理由が…

このツモでカンができるメリットがある。何せ40000点が目の前に転がっているのだ!ツモを1つ増やす意味は大きい。しかし、園田は考える。

そしてを静かに河に置いた。

点数状況を見てほしい。カンして下手にドラが乗ってしまうと、3着目の茅森が前に出づらくなってしまう。さらに一切オリないラス目・松本の大物手成就率が高まってしまい、1ツモ抽選を受けるメリットに見合わないと判断したのだろう。そのシナリオ通りに茅森から

1000点をアガってトップでフィニッシュ。始めから終わりまで完璧なる園田の半荘。どこかで聞いことのあるフレーズだが、それくらい園田は卓上で輝いていた。

 

ドラフトで名前を呼ばれたときは一番知名度の低かった存在、園田。

しかし、誰よりもその才能をみせつけているように感じる。

我々はとんでもない化け物を目の当たりにしているのかもしれない。

(園田+54.7 黒沢+12.9 茅森-22.1 松本-45.5)

 

ZERO(ゼロ)

麻雀ブロガー。フリー雀荘メンバー、麻雀プロを経て、ネット麻雀天鳳の人気プレーヤーに。著書に「ゼロ秒思考の麻雀」。現在「近代麻雀」で『傀に学ぶ!麻雀強者の0秒思考』を連載中

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