一発目にを押した近藤は、さらに進んだこの手で両無筋でありドラそばでもあるをプッシュ。次の巡目に持ってきた
もプッシュ。
近藤「勝負所と見て、全部行こうと思った」
勝負所が東一局にやってくることはある。いや、東一局だからこそ、放銃してもリカバリーが利くとも考えられる。こうして近藤はをツモってきてテンパイ
待ちのはが3枚見えていて、しかも親リーチの現物であるが、それでも迷うことなくこれまた両無筋のを切ってリーチといった。
親リーチに対し、
無筋⇒両無筋⇒両無筋⇒両無筋
と切ってリーチである。
いや、たしかに勝負手だが、GOとサインがでたときの近藤の押しっぷりはまさに鬼神のようだ。
近藤の気迫に吸い込まれるように野間が一発で掴んだ。
裏も乗ってハネマンのアガリ。リスクを背負って前に出た近藤は大きなアドバンテージを手にした。一方で野間は強烈なカウンターパンチを浴びた。
東3局。
親番の近藤は
この手牌でとをスルーしている。にいたっては2枚目もスルーしているので、もう鳴く気は一切ないのだろう。解説の魚谷も「Mリーグのチームメイトだけど、近藤さんの麻雀は全く分かっていません」と言っている。いや、全ての人が理解に苦しんでいると思う。
近藤は、自身の著書にこう記している。
>1週間くらい泣き明かした私は、少し我に返ると、ある1つの決意をしました。(これまで積み上げてきた理論は、全部捨てよう)
>するとどうでしょう。まるで新しい世界にでも飛び込んだかのような感覚で、自分の1打1打がとても恐ろしく感じられていたことをよく憶えています。
>当時私が感じていたことを、あえて平たい言葉で表現するなら、(気が狂っている)です。そのせいかもしれませんが、ちょっとでも気を抜くと、また理論が頭をもたげてきます。
(マイナビ「大きく打ち大きく勝つ麻雀」より抜粋)
師である飯田正人の訃報を受けたあとから、近藤の麻雀が生まれ変わったことが書かれている。当時の「近藤誠一自身」も自らの取る選択が怖く、今の我々のように理解できていなかったようだ。
「1500に興味はない」
後にそう語る近藤は、この大舞台でもスタイルを崩さない。もう理論との狭間で揺れることはなく、自信を持って打っているように見える。
この局は野間が片山から5200。近藤にとって無傷で親が流れるのは、上々の展開だと言えよう。
「渡辺の後悔」
東四局。闘う眼科医、野間がこのテンパイ。
すぐにリーチを打つが、その宣言牌のをポンしたのが親の渡辺だった。
既にをポンしており、ここで何を切るかが難しい。を打てば少し広いが、打点は5800と点棒状況的に少し物足りない気はする。しかし渡辺は中筋という事もあり打を選んだ。3巡後にツモってきた
このを、渡辺は一生忘れることができないだろう。
とはいえとが先に切ってあって、が宣言牌のリーチだ。はほぼ通るだろうし、先制リーチの入っていることを考えるとアガリ確率を最大に構えたい気持ちはとてもよくわかる。隣で一緒に観戦していた小林剛も「リーチが入っていないならともかく、これはを打つよ」と言っていた。ただ、リターンとして、ここでの5800と12000の与えるトップ率への影響を考えると、アガリ逃しや放銃のリスクをふまえても、打と勝負にいく選択肢も十分考えられるようにも思える。
結局、野間がツモって2000・4000。
新宿の妖精に垂らされたアガリへの糸はたったの一本だった。