左手に携えた最強の矛
黒船・鈴木大介が最強を穿つ
文・東川亮【金曜担当ライター】2023年12月22日
鈴木大介は、麻雀界にとって「黒船」と称される打ち手だ。将棋棋士でありながら麻雀界のビッグタイトルである最強位を獲得し、その後も麻雀プロを真っ向から蹴散らしてきた。
そして今年は満を持して麻雀プロとなり、新チーム・BEAST Japanextの一員としてMリーグに参戦。アマチュア時代から強者として名高かった男が、麻雀界の顔である渋谷ABEMAS・多井隆晴と、大和証券Mリーグの舞台でついに対峙する。
年の瀬の夜、最強の「矛」たるその左腕は、いつにも増して力強く振るわれた。
最強の「盾」を破るために。
第1試合
南家:鈴木大介(BEAST Japanext)
東2局2本場。
大介はチャンタ三色の見える手牌からを切った。はドラそばでうまくいったときの打点は高いが、親番ということもあり、ここはのピンズの伸びを見た形。手牌はピンズが多め、チャンタ三色とホンイツは仕掛けたときの打点が一緒だが、ホンイツのほうがいい形が残りやすそうだ。
この構想がうまくハマった。ピンズのほしいところを立て続けに引き入れ、最後は4枚目のを引いて待ちのリーチ。なら高目一気通貫という超大物手に育つ。
同巡、多井が大ネックのドラを引いてテンパイし、追っかけリーチ。しかし出ていくのは、ピンズの伸びを見て残していただった。これを前巡に処理する手順があったか、というのは結果論。
裏ドラは乗らなかったが、大介が強烈な満貫を多井にお見舞いし、トップ目からさらに持ち点を伸ばす。
大介は東4局にも親番の本田から満貫を出アガリ、持ち点を5万点に乗せて東場を終えた。他3人が1万点台で並んでいて早いアガリも出やすい点数状況であり、下手な放銃さえしなければかなりトップは持ち帰れそうではある。
・・・だが、果たして大介はそんな打ち手だろうか。
南2局。
この局は本田が先手を取った。超好形の1シャンテンから待ちリーチは感触抜群、ドラ赤も内蔵した、逆襲の足がかりとなる手だ。
だが、そこに真っ向から立ち向かったのは親番の大介。急所のカンを引き入れるやいなや、ノータイムで待ち追っかけリーチ。
・・・ちょっと待て、大介は6巡目に何を切っている?
だ。
つまりこの待ちはフリテン。
にも関わらず、大介はリーチに踏み切った。おそらく、決めていた。
いかに待ちに自信があれど、トップ目から追っかけでフリテンリーチなど、なかなかかけられるものではない。出アガリができず、振り込んだらリードを吐き出し、素点どころかトップすら失いかねない。リスクが大きすぎるため、いったんテンパイを取るにしてもリーチはせず、危ない牌を引いたら守備に回る、という打ち手が大半ではないだろうか。もちろんリスクは承知。その上で逡巡なく踏み込むのが、鈴木大介という打ち手なのだ。超攻撃的な打ち筋はまさにBEAST、獰猛な獣のよう。
2巡後、「ガチン」という衝突音と共に、大介の手元でが跳ねた。
リーチツモピンフドラ赤、4000オール。
無謀にすら見える攻めを強引に押し通し、アガリをもぎ取る。
この姿こそ、ファンが見たかった「黒船」鈴木大介。
続く南2局1本場も、5巡目のタンヤオドラ赤、カン待ち7700テンパイから躊躇なくリーチ。自身のリーチに立ち向かいにくいことを分かっているからこそ、安全策を採らず攻めに出る。この攻撃は実らず流局に終わったが、次局にはさらに強烈なアガリが生まれた。
南2局2本場、先制は多井。
ドラを切って待ち、ツモり三暗刻のリーチをかける。
を2枚持っていた大介がポンで応戦。
まだまだテンパイまでは遠いが、ドラが3枚見えたことで比較的多井のリーチには押しやすくなっているし、放銃しても下が競りになるのはそれほど悪いことではなく、押し得の状況になっている。
4枚目のを引いて切り。引きでドラメンツとして使えるようになり、他のメンツができれば加カンしてリンシャンツモも狙えるとは言え、現物を残して全くの無スジを迷うことなく叩き切っていく姿ははた目に見ていても恐ろしい。
大きく息を吸い、ほおを膨らませながらツモりに行く 大介。完全に入っている。