才能のあるやくざは出世するか、早く死ぬらしい
古い話しです。
「山ちゃん、これから大阪から来たやくざとご対面なんだけど、いっしょく行く?」
「行きませんよ」
末井昭さんの誘いを、いったんは断ったものの、歌舞伎町の近くの美味しいすき焼き屋だというので、私も渋々参加することにしました。
当時「パチンコ必勝ガイド」が急成長してて、編集長の末井さんの所には、色んな企画や攻略法や儲け話と称するものが、全国から持ち込まれていました。
「末井さん、念のため相手にお勘定を払わせないようにしましょう」
中年の黒ジャンパーのIさんは、最初からテンションが高くて、大声で東京のやくざの悪口を言うので閉口しました。
客席はフスマで仕切った座敷なので、運悪くとなりの部屋に地元のやくざが居たらと思うと、気が気じゃありません。
「関東モンはヘタレじゃあ」 歌舞伎町でケンカした時の自慢話を始めました。
携帯電話が出始めたころで、深夜の歌舞伎町で、大声で携帯電話を使いながら歩いてる者は、たいていやくざに見られていた時代です。
Iさんが殴り倒したやくざは、応援を求めて携帯で組事務所に助けを求めたそうです。
Iさんはそれを引ったくって、電話の向こうの相手に向かって
「今からそっちへ乗りんでやるから場所を教えろ!」
と言い放ったそうです。
私はホラ話しだと思いますけどね。
確かにそういう人もマレにいますけど、もし本当にそうだったら、とっくに死んでると思います。
でなければ、すでに出世してて、一人で営業に来たりしないんじゃないかと。
食事の途中、末井さんが抜け出して、打ち合わせどおりレジに行きました。
「お会計は私がしますので、他の人に払わせないでください」「申し訳ありません、もう別の方からおサイフごとお預かりしてますけど」
さすが東京まで営業に来ただけはありますね。
最近、末井さんと当時のことが話題になりました。
「末井さん、あの時のIさんって、今でも生きてるんですかね?」
「山ちゃんに言わなかったけ?実は末期の癌だったらしくて、どうやら死に場所を探してたみたいだよ」
Iさんの持ち込んだ儲け話しは進展しなかったようですが、巻き込まれなくて良かったかもしれませ。
やくざの女は
歩く不動産?
さらに古い話しです。
高田馬場の24時間営業のサウナに刺青歓迎の所があり、そこに良くいる牢名主にような遊び人がいました。
歌舞伎町の裏の旅館麻雀の仲間の一人で、呼び名はありきたりの社長。
社長と先生で人口の半分くらいですから。
社長は、そのサウナでは顔役。 電話を事務所代わりに取り次いで貰える、新聞は一番先に読めるなどの他に、月決めロッカーを常連客に割り当てる権利を持っていました。
「山ちゃん、無尽の人数が足りないんだ。たまには俺の顔を立てては付き合ってくれよ」
「そんな金無いですよ」
無尽というのは、グループで現金を持ち寄っての助け合いシステム。
商店街の経営者仲間で行われる、小額の健全な無尽と違って、こちらは地元の顔役が取り仕切る、大口の遊び人専門のリスクの高いヤツです。
利用するのは、銀行などの金融機関に信用が無い、怪しい商売人や遊び人たちです。
私が無尽に入らなかったは、胴元が飛ぶ(倒産や逃走)リスクも心配だったんですが、こちらのフトコロ具合を知られるのがもっとイヤでした。
その無尽は、一度も落札(借金)しないと、途中で受け取った金利の他に、10か月目には百万円が手元に残ります。
これを、何だかんだ言って狙われるんです。
金を貸してくれとか、競馬のノミ屋に付き合ってくれ、高い麻雀に誘われたりとか。
サウナ住まいの遊び人では、とても1本百万円の無尽を、何本も仕切ることはできません。
高額無尽は取り立てさえできれば儲かるので、時には、胴元どうしで客の取り合いをしてケンカになることもあるくらいです。
24時間営業のサウナにいつもいるんですが、別に家が無いとワケじゃありません。
小さいならがらも一戸建ての家を持ち、若い奥さんにスナックをやらせていると話してました。
それが社長の稼業の信用力です。
でも別の地元生まれの麻雀仲間の話はちょっと違ってました。
「あいつ家は嫁さんが別のパトロンに建てさせたんだよ。名義だって女の物。
あの器量だもん、旦那がいようがパトトロンは付くだろう」
いつかチラ見した、社長と一緒に歩いてた娘さんみたいな女性のことだろうか。
「ハンチク者のあいつの一番の財産が嫁。あの稼業じゃ税金も納めないから、不動産を買うのは難しい。女が歩く不動産みたいなもんだ。嫁がパトロンを家に入れることもあるらしいな」
24時間営業のサウナの常連なのは、そのせいかもしれません。
ある時私がサウナに行ったら、救急車で裸のお客さんが、運びだされるところでした。
中に入ると、例の社長がガウンをずぶ濡れにして立っていました。