麻雀最強戦2019
男子プレミアトーナメント
「空中決戦」【特別観戦記】
“極上の残酷をありがとう”
担当記者:ZERO2019年6月23日(日)
オーラス、形作りの役満を狙っているときにようやく思考から解放され、緊張感が抜けていくのを感じた。
「ああ…もう終わっちゃうんだな…」
静寂の中、一挙手一投足を拾うように聞こえてくるカメラのシャッター音。
上家にはモニター越しで何度もみたMリーガー、園田賢。
――――憧れの場所は、それはもう眩しすぎて直視できないくらいの輝きを放っていた。
朝、タクシーの中から走っている人々を眺めながらスタジオに向かった。
皇居ランナーはよくメディアに取り上げられてはいるものの、実際に見るのは初めてかもしれない。
私も体を動かすことが大好きだが、排気ガスを吐き出し続ける車のすぐ横を走るのは、本当に健康的なのか疑問に感じてしまう。大都会東京だから仕方ないとはいえ、ますます地元の名古屋から離れたくなくなってしまうではないか。
目的のスタジオには予定以上に早く着いてしまった。
運営の方たちはせわしなく準備に追われているが、選手はまだ誰も到着していない。
一通り挨拶したあと、どうするか迷った。
私にとって今までの長い麻雀人生の中でも、最も大事な晴れ舞台だ。
その大事な対局前に、多くの人の中に居続けるのはどうなのか。
例えば現・最強位の近藤誠一プロは対局前、自身の控室からほとんど出ず、精神を集中させている。話しかけられると答えざるを得ず、そうするとどうしても気を遣ってしまうからだ。
持てるパワーは余すことなく対局に残したい気持ちが今になって少しわかる。
ただ、一流である近藤プロならまだしも、初参加の私が人を避けるのもおこがましいのかもしれない。私自身も会話は好きだし、特にこの日しかできない交流は大事にしたいと思っている。
こんな押し引きに迷っていたが、折衷案として対局1時間前までは交流して、1時間を切ったら控室にこもって目を閉じ、瞑想して集中力を高めようと決めた。
それにしたってあと3時間くらいある。どれだけ早く来てるんだって話だ(笑)
そうこうしていると他の選手たちも続々とやってきて、メイクアップ、入場リハーサル、場所決め…などのスケジュールが滞りなく進んでいった。
最強戦はこれまでにも著書の宣伝や観戦記を書くために、何度かお邪魔している。
しかし、控室のモニターに映るあの麻雀は、すぐ隣のスタジオで起きている出来事のはずなのに、遥か遠くの場所に感じていた。
それもそのはず、今年で30年を迎える最強戦、私は片山まさゆきさんが優勝した30年前からずっと憧憬を抱いていたのだ。
私が麻雀を覚えたころに最強戦は始まり、以来ずっと優勝者がその後輝いていくのを見てきた。超短期戦の運ゲーとよく言われるが、だからこそ濃縮されたドラマが生まれ、人は感動する、と私は思っている。それに勝ちあがる打ち手は間違いなく強い。
プロでも天鳳位でもない私がまさかこの舞台に立ち、感動を与える側を担うなんて、夢のようだ。
2着以上が通過となる予選A卓、起家を引いた私は、少し嫌な予感がしていた。
このような晴れ舞台に慣れていないため、いくら図太い私でも少し緊張してしまうかもしれない…と思ったからだ。
始まる前はこのようなネガティブな思案に押しつぶされそうだった。
1回もアガれなかったらイヤだな…せめて見せ場を作りたいな…
このように襲い掛かる不安はすぐに消し飛んだ。
1本場、供託が2本ある状態での500は600オール。
続く2本場は新婚の朝倉康心プロ(ASAPIN)からハイテイで5800は6400をアガる。
このアガリで持ち点は36700点になり、一息つくことができた。
しかしまだ戦いは始まったばかり。ここから3人の怒涛の攻撃を受けるだろうし、中押し、ダメ押しのアガリがないと、勝ちきれない。攻めの気持ちは忘れるな!絶対このままでは終わらないぞ!そう自分に言い聞かせていた。
…しかし、まさかこのまま終わろうとは。
重苦しい展開が続き、石川遼プロ(すずめクレイジー)が一発で
1300-2600をツモった以外は小場で進行し、流局も多かった。
特に自分に都合のいい横移動や流局がほとんどで、見た目以上に展開に恵まれた。
結局東1局以降は一度もアガれなかったにも関わらず、
34300点のトップ目でオーラスを迎えることができ、そのオーラスも無難に受け流した。
僥倖の展開で決勝卓へ勝ち進むことができた。
ここで決勝までの時間の使い方にまた迷った。
次のB卓が始まって終わるまでまだ3時間ほど間がある。
次に戦うことになるB卓の通過者の麻雀を研究するために観戦するか…それとも…
私はモニターの音を消した。
それくらい精神を摩耗していたからだ。
たしかに展開は楽だったが、不用意な放銃を避けるために、打ち出される牌に神経を研ぎ澄ませ、自分にとって最良の選択を積み重ねたつもりだ。あれほどエネルギーを使った半荘はこれまでになく、かなり疲弊していた。
モニターを見ているとどうしても麻雀を見てしまい、情報が入ってくる。
私は思い切って横になり、目を閉じた。