次巡に沢崎が残り1枚のをツモ切り、瑞原は1300のアガリで瀬戸熊の本手をツモらせることなく潰したのだった。
瑞原「リーチも考えましたけど、2着目につけていた沢崎さんがドラのをポンしていたので、あそこはかわし手だと思いました。あとは守備、あまり押す気がなかったので、ドラに対しても親リーチにも押す気はなく、危険牌を持ってきたらやめようと思っていました。守備を考えたダマテンでした」
もしリーチをしていたら、瑞原の翻牌であるが沢崎からすぐに打たれた保証はどこにもない。本人曰く、「緊張していて、対局についてあまり思い出せない」ということだが、そんな中でも的確な判断が光った一局だった。
その後、瑞原は南3局にはダブドラドラ赤の満貫手で2着目だった沢崎のリーチ宣言牌を仕留め、セーフティーリードを築いてフィニッシュ。終始安定した麻雀を見せ、Mリーグデビュー戦で見事トップを獲得した。パイレーツにとっては、待望の2019シーズン初トップを新戦力の瑞原が決めてくれたということで、二つの意味で大きな勝利となったことだろう。
さて、この瑞原。勝利者インタビューでリポーターの松本圭世さんから「好きな役は?」と尋ねられ、あまり面白くない答えですけど、と前置きしつつ「全部」と答えている。役の好みに優劣をつけないのはいかにもパイレーツらしいと言えるが、彼女は加えて、「Mリーガーのみなさんにはそれぞれ個性があるが、自分の麻雀にはあんまり色がない」と自身を評価していた。
この発言に、ある種の怖さやすごみのようなものを感じたのは、筆者だけだろうか。
「色がない」という言葉通り、この半荘を見た限りでは、瑞原明奈という選手に何か特定のイメージを持つことはなかった。それは「何をやってくるか分からない」、言い換えれば「何でもできるし、何でもやる」ということだ。ただ、彼女が注目してほしいという「細かいところでの判断」の精度がかなりのハイレベルであることは間違いないだろう。
そして特筆すべきは、Mリーグデビュー戦という大舞台、瀬戸熊・佐々木・沢崎という歴戦の猛者に囲まれた状況で、自分の麻雀をやりきり、勝ちきってしまったことだ。この対局を見ていた他のMリーガーたちは、「変幻自在の女海賊」瑞原明奈への警戒を強めたに違いない。
次はどんな一面を見せてくれるのか…彼女の麻雀に、今後も注目していきたい。
最後に、これだけは書かせてください。
よどみない摸打。
鳴いたときの流れるような所作。
勝負どころを迎えたときの、凜とした表情。
めちゃめちゃ美しいじゃないか!
こうしてみると、青のユニフォームがとてもよく似合っている。パイレーツは今年ユニフォームを変更したのだけど、このユニフォームを瑞原選手が着ているというだけで、変更は大成功だったと思いました、はい。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。