面白くて強い! ファンのボルテージを上げ 卓上を支配する「多井熱」【熱論!Mリーグ】担当記者:山﨑和也

熱論!Mリーグ【Mon】

面白くて強い!

ファンのボルテージを上げ

卓上を支配する「多井熱」

文・山﨑和也【月曜担当ライター】2020年2月10日

遠山「もし宇宙から麻雀星人がやってきて、地球代表を3人選んで麻雀星人と対戦し、地球代表が負けると地球が侵略されるとしたら、誰を出す?」

藤井「現個人スコア1位の近藤さんですかね」

里見「麻雀星人の上家に多井さんを座らせてみましょうか。対面には女流プロを置いて集中力を切らして、なんとなく土田浩翔さんに解説させたいです」

遠山「いいねいいね~」

勝又「君たちは何を話しているんだ」

ついにカミングアウトをする。

筆者がMリーグに興味を持つようになったのは多井隆晴のおかげである。昨年たまたま麻雀チャンネルを見ていて、妙に解説の人の話が面白かったのだ。将棋の世界ではあまり見られない軽妙なトークに惹き込まれた。またこの人の解説を聞きたいと思った。

推しの選手は昨シーズン破竹の勢いで勝ちまくった。面白いだけじゃなく、とにかく強かったのだ。気づけば多井がまた勝つかを見たくて、いつの間にかMリーグの虜になっていた。応援している選手が勝つことこそがファンにとって最高の喜びである。観戦記ではなるべくフラットな視点を心がけているが、今回の1戦目は多井を中心に見ていきたい。多少の熱注意。

1戦目

東家 沢崎誠サクラナイツ

南家 佐々木寿人麻雀格闘倶楽部

西家 多井隆晴渋谷ABEMAS

北家 二階堂亜樹EX風林火山

昨シーズンと比べると、多井はおとなしい。現在個人ランキング12位でわずかにプラスだが、物足りなさを感じる人も多いのではないのだろうか。その要因がひとつあった。

今シーズンから参入したサクラナイツ沢崎の存在である。多井は沢崎と相性が悪いようで、ふたりが同席した試合はほとんど沢崎に軍配が上がっているのだ。データによると200ポイントほど喰らっているようだ。沢崎がいなければ+200点していたと考えると、多井にとって天敵といえる。

東2局1本場から。ここまで大きな点数移動はなく、渋い展開を迎えている。多井の手は七対子を狙ってどうか。

手が良かったのはふたり。まずは亜樹だ。第一打を切ってから端の牌を切り続けており、タンヤオ系、それも手がまとまっているように思える。

そして親番の寿人だ。待ちの先制リーチを放った。

多井語録風にいうと「地震雷火事親リー」。

多井としてはもう自分の手は戦えない。当然オリるわけだが、そこでひとつテクニックを見せた。

寿人の現物のを切る際に、あえてを切ったのだ。亜樹が思わず食いつく。後々、他からリーチがかかってきたときに危ないかもしれないを先に処理するという守備意識と、亜樹を戦いのフィールドに上がらせるというテクニックで参考になる一打だった。

結果は亜樹が制したが、トップを狙う多井にとっては親の寿人に連荘されるほうが嫌だったはず。まだ大きく点差も開いていないので、思惑通りの展開となった。

東3局

まずは亜樹の配牌から見ていく。第一打が衝撃のドラだ。ドラを大事にする亜樹が打つだけに迫力がある。実際はこのバラバラな手。国士無双が本線だ。

親の多井は加点を狙いたいところ。もちろん亜樹の第一打を見逃すはずがなく、警戒しているように思えた。

続いて手にした不要牌のをそのままツモ切らず、手の内に残した。亜樹が早い段階でリーチをかけてもおかしくないので、それに対応したといえる。

後にを切ることになるのだが、ここまでくると筒子の混一色で遅い可能性もある。他に切る牌もないので、ここがタイミングだろう。細かいようでも、こういったケアができているかで実力が問われそうだ。

中盤に差し掛かったところで多井が鳴いた。特急券の乗車だ。手がまとまりつつあったのでもったいなくも見えるが、下家の亜樹の河を見ると、筒子が切られている。もうそろそろ時間がないと見て、速度を合わせたのだ。Mリーガーは皆対応力がすごいが、中でも多井は人一倍相手をリスペクトし、手の進行具合を読んでいるように感じる。

結果はをツモり、1000オールでこの局を終わらせた。亜樹の大物手の可能性を消して連荘できたのは好都合に思える。

ただ、しぶしぶ……といった感じがあった。トップを狙う多井にとって、この収入は不満だったか。裏を返せば亜樹の立ち回りが上手かった。自身のキャラクターを逆手に取る戦術でもあった。

東3局1本場。寿人が上図からを切って再び先制リーチ。多井語録だと「ヒサちゃんのリーチなのに待ちが2個ある!」。

親の多井は七対子で粘っていた。ドラをツモって待望のテンパイ。ここは場に1枚出ているで待つのがセオリーだ。多井も打としてダマテンに構える。

しばらく待ちが続いたところで多井を悩ませたのはこの場面。指に隠れてしまい見にくくて申し訳無い。手にしているのはは寿人の現物だ。ただ、も山に残っているように見えるので、残り2枚を追い求めたくなる。マウンテンツー。しかし実際は沢崎のところに対子であった。

多井は打を選択した。しかしこれはミスだったと振り返っている。が終盤まで出てこないということはを持たれていることや、そもそも寿人の当たり牌である可能性もある。

だが、トップを取るためにはリスクを取ってでも待ちにして、狙い撃つ姿勢でいたほうがよかったようだ。多井はこのミスが頭にずっと残っていたという。

結果は流局。待ちにしていれば七対子ドラ2で寿人から9600点をアガっていた。結果論のように筆者は感じたが、それをミスと認めていたところに多井の強さを感じる。

南3局でも多井の工夫が見られた。やはり小場が続いている状況で、多井はこの手。ここまでの捨て牌は自身にとって不要な牌を切っているのだが、他家から見ると何か可能性を感じるように見えないだろうか。筒子の混一色だ。

を切ってじわりと前進。だが、これはブラフも兼ねた戦術であった。このあと多井はをポンしてをチー。つまり混一色と見せて周りにプレッシャーをかけ、手の進行を遅らせるというテクニックを使ったのだ。

最終形(を鳴いた時点か)を見て「なんだ、多井さん安い手だったのか」と思ったに違いない。これまでに築いた多井ブランドはおそらく影響力が高く、「多井が鳴く=並の手ではない」という図式ができているように感じる。今局の打ち回しはそれを逆手に取ったといえるだろう。前年より進化して戦術の幅を広げる様は、将棋の羽生善治九段を思わせる。

最終結果はこのようになった。全員が2万点台という僅差の戦いを制したのは多井。派手なアガりこそなかったが、与えられた条件でしっかりとミッションをこなしていたように見えた。多井はこの日配牌もツモもあまりよくなかったが、卓上をコントロールし、腕でもぎ取ったトップだった。

気になったこともある。インタビュー時の多井はなんだか疲れているように見えた。神経をすり減らすような戦いのあとだったからかもしれないが、また病気でチームを離れてしまわないか心配だ。今シーズンは「エースは白鳥に任す」といった発言もよく聞くし、筆者はもっと多井熱を見たいと思っている。とはいえ、この日の多井は強かった。大満足である。

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