国士無双などいらない!
近藤誠一が下した
最強位奪回への決断
【B卓】担当記者:山﨑和也 2020年12月12日(土)
いよいよ麻雀最強戦はファイナルを迎えた。
思えば去年、鈴木大介が最強位を獲得した時、将棋界が騒然となった。趣味でやっていた麻雀で最強になってしまったと。将棋界に新たなタイトルホルダーが誕生したなんてジョークが飛び交ったものだった。普段将棋は知っていても麻雀は知らないという方も、思わず興味を抱かれたのではないだろうか。あれからもう1年かぁ。
今年は誰が最強位になるだろう。それでは今回はファイナルB卓の模様をお送りする。
東家から順番に選手を紹介。
MリーグではEX風林火山に所属。『麻雀バガボンド』滝沢和典。安定感抜群の本格派雀士で、麻雀界では教科書のような存在で知られる。
嶋村俊幸プロの代打で出場だったがあれよあれよという間に勝ち進んだ。『ゴキゲンな一発屋』新井啓文。棋士との交流もあり、将棋界でも聞いたことのある人は多いはずだ。
麻雀を覚えて1年という驚異的な経歴を持つ。『麻雀メタモルフォーゼ』安部颯斗。現在22歳の大学生だそうだ。若武者の最強戦ドリームなるか。
元最強位。『大魔神の系譜』近藤誠一。Mリーグではセガサミーフェニックスに所属。玄人もうなる打ち回しが多く、ときに芸術的な手順も披露する。
東1局。
最初にテンパイが入ったのは滝沢。ドラのを切ればテンパイだ。
ここはリーチをかけずにダマ。上家の新井の捨て牌が真ん中ばかり切っていることや、対面の近藤がという切り順だったので早そうと見たか。をポンされたらダマ続行だったと思われる。リーチを打ってドラ3の手に放銃したら厳しくなるからだ。
は鳴かれなかった。ならば自分が一番早いと判断できる。平和のみの手だが続くをツモ切ってリーチをかけた。
ほどなくしてツモアガった。まずは700―1300のアガりで好スタートを切る。を切ったところでリーチをかけない滝沢の繊細さが目立った。
東2局。
滝沢は引き続きアガりが狙えそうな手。
さて、本局で気になる存在だったのは安部である。麻雀を覚えて1年でこのファイナルの舞台に来られたのは藤井聡太をも凌ぐ才能の持ち主ではないか。ここはを切ってカンを嫌う。生牌のは残した。
仮にが出ていたら新井が鳴いていたかもしれない。を重ねてメンホン七対子のイーシャンテンとなった。
河に2枚目のが出て安部はポン。バックで攻めていく。これは賛否あるかもしれないが、これを鳴かないとそもそものアガりが狙えないので、筆者もそうしそうだ。
滝沢にテンパイ。またも平和のみの手だが
ここは当然の即リーチ。を鳴いて守備力が落ちている安部、勝負手の新井からも出る可能性がある。
新井が掴んだ。シンプルな安全度で考えれば字牌を切ったほうが当たらないだろう。しかし
ノータイムで押していった。これは自分の手の価値が高いと見ている。これはやむなしといえるだろう。放銃してなお強しと思えた一打だった。
大きな裏が乗って3900のアガり。滝沢がややリードを奪う。このファイナルは2位までが勝ち抜け条件なので、3万点ちょい超えのリードでも大きい。
東3局。
河が二段目に入って安部がイーシャンテン。ドラにくっつける用に残しておいたを切った。の形は面子+出っ張ったと見るのではなく、との両面と見れば好形である。筆者が麻雀を覚えて1年目の頃だったらを切ってしまっていそうだ。
少し時間はかかったがテンパイ。役がなくドラもない手だが元気よく打で先制リーチ。
解説の魚谷侑未プロも「リーチのみで怖い気持ちはあると思うんですけど、堂々とリーチって行ってていいんじゃないですか」とコメント。確かに、中盤以降の巡目だと、どこからか押し返される不安もあるだろう。
滝沢にもテンパイが入った。しかし待ちは単騎。巡目も終盤なのでいくら親でもリーチはできない。
続くツモでを引いたが、スクショが間に合わないほどすぐにツモ切った。が切れないというのもあるが堂々としている。自身の親番続行のための形式テンパイのほうが重要と見ている。
安部がトップの滝沢からをアガって1300点。このアガった牌姿も力が入っていていいではないか。ぐにゃりと曲がったそれを見て、「ああそういえばまだ麻雀を覚えて1年なんだっけ」と、漫画に出てくるモブキャラみたいなセリフをつぶやいた。
漫画「ヒカルの碁」ならぬ「颯斗の麻雀」だったりして。彼の背中に恐ろしく麻雀の強い幽霊さんがいるかもしれない。