◇はじめに
これは麻雀最強位を目指す妻とそれを応援する夫、2人の麻雀プロによる愛に満ちた麻雀戦術記録である。
先日行われた最強戦2021女流プロ最強新世代予選会で見事勝ち上がった妻・駒田真子(こまだまこ)。日本プロ麻雀連盟の先輩であり、以前に最強戦全日本プロ大会へと進出した経験もある夫・東谷達矢。
来る8月22日の決戦に向け、夏の麻雀強化講座が始まった!
東谷「まこちゃんどうしたの? 嬉しそうな顔をして」
まこ「見てみて。シュークリームが半額なの」
東谷「このシュークリーム美味しいよね。買いましょう」
東谷「賞味期限間近でも美味しいね」
まこ「ね。でもなんで美味しいのに半額なんだろう」
東谷「賞味期限切れになると販売できなくなるから。それに、同じ味だとしたら期限切れ間近のものより、日持ちする商品の方が嬉しいよね?」
まこ「そっか。味は美味しくても期限切れ間近っていうことで価値が下がってしまっているんだ」
東谷「そう。物の価値は需要と供給の関係で成り立っているから、ちょっとした情報でも変わってしまうんだよね。じゃあ今日は麻雀の手牌の価値について話をしようか」
まこ「手牌の価値……」
東谷「前置きだけど、まこちゃんは1000‐2000を2連続でアガるのと2局で2000‐4000を1回アガるのはどちらが難しいと思う?」
まこ「うーん、1000‐2000を2回かなあ」
東谷「じゃあ2000‐4000を2連続であがるのと2局で4000‐8000を1回アガるのは?」
まこ「4000‐8000を1回のほうが難しいと思う」
東谷「どうして?」
まこ「なんでだろう。うまく説明できないけど、倍満は狙っても中々作れないからかなあ。南3局でトップと20000点離れていて親がなかったらまずは満貫を目指して手作りする」
東谷「その感覚は正しいよ。具体的な数字を出してもピンとこないだろうから確率の話はしないけど、麻雀は4人に1人しか和了ることができないから4翻を1回あがるより3翻を2回あがる方が難易度が高くなる。そして後者に関しては、4翻までは1翻増える毎に点数が倍になっていくのに対し、4翻以降は満貫やハネ満、倍満と上昇率が下がる上、たくさん役が必要になるから出現率はぐんと下がるんだ」
まこ「一発裏なしのルールでまずは3翻から4翻を目指せって言われているのもそれが理由かなあ」
東谷「そうだね。一発裏ありの場合、立直を掛けることで偶発役で4翻に到達することがあるから手役に固執することはないけど、基本的な考え方は同じになる。というわけでここで下の牌姿を見てみよう」
ドラまこ「テンパイしてる」
東谷「タンヤオ・ドラ2の5200点だね。東1局5巡目で上家からが河に捨てられたらどうする?」
まこ「スルーする。食い伸ばしでリャンメンに変化するけど打点が半減するから鳴きたくない。そのままあがれても十分だし、自力でリャンメンや3面張形の手変わり牌を引き入れて立直を打てばハネ満以上も見込めるよ」
東谷「そうだね。アガリ率が劇的に変わるわけでもないのに食い伸ばしをして1000‐2000で終わらせるのは少しもったいない。じゃあ手牌はそのままで少し条件を変えよう。9巡目に親である上家が立直をかけて10巡目にが出たとする。捨て牌が、」
リーチ
自分の手
ドラ
東谷「この時どうする?」
まこ「気持ちは鳴きたくない。けど鳴かなきゃダメ?」
東谷「そうだね。これは最初の問題と手牌の価値が違う。巡目が深く、親がリーチしているという情報もある。賞味期限切れ直前のシュークリームと同じで、価値が下がっているのに高いリターンを求めてはいけない」
まこ「親のの筋でが出やすいから鳴くのを我慢するという考えはダメなの?」
東谷「その比較のポイントは3つ。1つ目はスルーして危険牌を押した場合、親リーチ相手ということもあり目立ってしまうのに対し、食い伸ばしを行うと現物ではないが比較的安全そうなを切ってツモ番を飛ばすことができる。2つ目は筋のより現物のの方が切られやすい。3つ目は単純に受入枚数が多い。だからこの局面においては食い伸ばしをした方があがれる可能性はぐっと高くなる」
まこ「確かに他家視点だとこの仕掛けを受けても、テンパイしてるかもわからないし、まだ親リーチの方に目線は向くね」
東谷「じゃあリーチを掛けている親の捨て牌がこの時はどうだろう」
リーチ
自分の手
ドラ
東谷「さっきの捨て牌とどこが違うでしょう?」
まこ「6巡目のがに変わってる」
東谷「そうだね。この時は食い伸ばしする?」
まこ「これはしないのが正解だと思う。食い伸ばしした後に出ていくが無筋だから」
東谷「その通りだね。食い伸ばしをして無筋のを切るとまず放銃のリスクを背負うことになり、更には親リーチに押したことで他家の警戒を受ける。目線が自分に向くことで親の現物を簡単に切ってもらえなくなる。さっきの3つのメリット(①食い伸ばしを行うと比較的安全そうな牌を切って目立たずツモ番を飛ばすことができる。②筋より現物のの方が切られやすい。③単純に受入枚数が多い)の最初の2つがなくなることで食い伸ばしを行うことに対する期待値が一気に下がってしまうんだ」
まこ「親の捨て牌一つでここまで判断に影響してしまうものなんだね」
東谷「そう。麻雀はたったの1巡で情報が目まぐるしく変わることもある。他家からどう見られるかということも考えた上で選択することが勝敗に直結するんだ」
まこ「なるほど、勉強になるね」
東谷「じゃあそれを踏まえて、親の捨て牌を戻してまこちゃんの手牌のドラがだった時を考えよう」
自分の手牌
ドラ
親の捨て牌
まこ「打点が下がってる。しかもこれは食い伸ばししたらドラのを切るはめに……」