多井隆晴の人知れぬ感情 雄弁なる男の、寡黙な一面【須田良規のMリーグ2022-23セレクト・5月9日】

5度目のファイナルに挑んだ渋谷ABEMAS
その前半戦、今週8戦の成績は41231122であった。

白鳥翔松本吉弘の活躍が目立ち、チームは251.9ptの首位。
2位と120.1ptの差を築いている。

今週の主役は正にショウマツと言っていい。
悲願の初優勝に向けて、二人の若武者がチームを牽引している格好だろう。

しかしその陰で、助演賞とも呼べる奮闘を人知れず果たしている選手がいる。

多井隆晴、その人である。

5月9日(火)第2試合東2局2本場
東家のEX風林火山二階堂瑠美はこんな手から、ドラの【6ピン】を放した。

ダブ【東】赤ドラで、12000は確保。ドラを1枚切った十分形にするのは当然だろう。

そして10巡目に待望の【東】ポン。
【8ソウ】【5ピン】【8ピン】待ち12000だ。

その直後の12巡目、多井が【8ピン】を掴んだ。

全体図を見よう。

【8ピン】は自身で初巡に切っている牌だ。
瑠美はドラの【6ピン】を先に切っている。

これを多井はしばしの思案の末に──、

手に残して、現物の【西】を切った。

この瞬間を観戦していた仲林圭が、

「第1打【9ソウ】の瑠美さんが【東】ポンで打【8ソウ】
 これは【6ソウ】アタマや、【3ソウ】【3ソウ】【4ソウ】【5ソウ】【6ソウ】【3ソウ】【4ソウ】【5ソウ】【6ソウ】【6ソウ】のケースが多く、
 その場合は【5ピン】【8ピン】固定のドラ【6ピン】切りがあるからですね」

とツイートしている。

瑠美の手牌も多井の予想も正にその通りであり、
一流は一流を知る、ということが伺えるやり取りだと思う。

しかし、自分の手は待ち頃の字牌3種残ったチートイツ赤のイーシャンテン。
点棒は30000点持ちとまだまだ積み上げたい状況だ。

瑠美はソーズがアタマであろうが、待ちは特に絞れているわけではない。
そもそも【東】をポンしただけで、テンパイかどうかも楽観的に見る人だって少なくはないはずだ。

だが多井は甘えなかった。

瑠美がダブ【東】トイツなのにドラの【6ピン】を我先に切ったことは、
好形残りの高打点イーシャンテンをむしろ保証する。

そしてドラ表示牌含め、【5ピン】【8ピン】は5枚見えになっている。

さらに自分の手のアガリ易さと価値。そのバランスを多井は考慮し、オリの一手を選んだ。

「仲林さんの指摘した読みはもちろんなのですが──、
 瑠美さんをテンパイと断定できるかどうか、そして自分の手を捨てられるかどうかも重要ですよね」

多井はそのように語る。

確かに、相手の手牌を読むことはある程度できても、その精度に確信を持ち、
それに殉じてオリれるかどうかはまた別問題だ。

誰だって、自分の手を歪めてオリなどしたくはない。
どうにかして切れる理由──、それは残りスジによる確率だったり、点棒状況だったり、
切っても許されそうな理屈を求めたくなるものなのだ。

この半荘、もう一つ印象的なシーンがあった。

南3局、南家のTEAM雷電黒沢咲がリーチ、

続いて西家であるダントツのKONAMI麻雀格闘倶楽部滝沢和典が追っかけリーチに踏み込んだときだ。

東家だった多井は2軒のリーチを受けながら、13巡目にこの形でダマでテンパイ。

亜リャンメン【1ピン】【4ピン】待ちで【1ピン】がフリテン、【4ピン】が二人に打てないという状況である。
もちろんリーチは出来ず、対応の余地を残して次巡に掴んだのが、滝沢の待ちである【4マン】だった。

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