一家離散は突然に…⁉︎
急展開を見せる
女流プロ雀士
【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.4
前回までの「百恵ちゃんノート」
一家離散
百恵ちゃんが中学校を卒業するとともに田渕家は解散した。
実家の一軒家に母、父は転勤、姉は失踪、百恵ちゃんは一人暮らしをすることになった。面倒くさいので高校に進学をするつもりはなかったのだ
が、願書提出期限の前日の日に担任に捕まり
「とりあえず行くだけ行ってみれば?◯◯ちゃんも同じ高校だよ」
という小学校低学年の子供にするような簡単な説得で受験をすることになった。
受験前日は高校がより近い◯◯ちゃんの家に泊まり、翌日二人でしっかり寝坊をし大幅に遅刻した。が、無事に合格した。鼻ピアスにジャージ姿で受験しにきた友達も合格していた。
高校生の百恵ちゃんはクズ人生の中でも一番まともな時期だったかもしれない、と思う。一人暮らしをしながら朝から時給650円のアルバイトを複数掛け持ちし、夕方に高校に行き授業を終えると21時から 部活、帰ってきてから家事をこなしエリー(飼い犬)を育てていた。
近年稀に見る貧乏苦学生だった。 出席日数は毎回ギリギリで何度も父が学校に呼び出され最初こそスーツ姿で来ていた父も呼び出されることに慣れたのか最終的にはタンクトップに短パン、サンダル姿で登場していた。そんななかでも一度も留年することなく卒業し、簿記2級等の資格取得や大学受験まで成功させた。
ーーーそんな高校生活を終えた百恵ちゃんが悟ったこと。
それは、
「もう何ひとつがんばりたくない」
だった。
「大学に進学すればこの苦行がまた4年も続くのか?」
という通常の人間であれば受験前に考えつくようなことを入学直前に思いつきそのまま入学辞退をした。お父さんが払ってくれた入学金の30万円を水に溶かしたのだった。
自動車教習所事件
百恵ちゃんは北海道の滝川市というところで生まれ育った。人口4万人程度の小さな街である。北海道は車社会な為、高校卒業間際になると皆こぞって自動車免許を取りにく。
百恵ちゃんも例外ではなかった。百恵ちゃんが漢字検定の勉強をしている横で”島人ぬ宝”を爆音でエンドレスリピート、コーラス付きで邪魔をしてくるような父だったが
「せめて免許くらい取らせてあげたい」
と言って教習所に通わせてくれたのだ。
『免許がとれてもしも車をゲットしてもカーナビは絶対に付けないこと』
という謎の約束をして通うことになった。だが初動がいけなかった。通い始めたのが1月だったのだ。北海道の厳しい真冬は全ての人間のやる気を削ぐ季節だった。
朝、目が覚めて葛藤する。「教習所に行くか?」すぐに思いつくのは
「否否否否否否否」
の言葉だけ。
当時仲が良かった先輩が
「優しい人じゃないとお前は続かないから」
といって女性の教官を紹介して くれた。とても優しい先生で最初は
「次いつこれるかな? 」
「焦らなくても大丈夫だょ一緒にガンバロウ」
というようなメールが来ていたのだが、のらりくらりと交わしていると最終的には
「いつこれますか」
といった句読点のない氷点下のメールしか来なくなりなんだか気まずくなってしまい、百恵ちゃんの一度目の自動車教習所は志し半ばで期限の終わりを迎え、お父さんの30万円は水に溶けた。
そして続いて姉も自動車教習所に通い始めたがS字クランクで何度も脱輪し心が折れ期限が切れ、またしてもお父さんの30万円が水に溶けたのだった。
しかし免許を諦めた数年後、百恵ちゃんは地元から120キロ離れた苫小牧市に移住することになり、移住前に再度運転免許取得を志すことになる。前回の女性教官から陽気な若い男性教官に指名変えした。教習所で女性教官に会うたび喧嘩別れした元恋人に会うようなえもいわれぬ甘酸っぱさを感じた。
しかし百恵ちゃんのだらしなさが治ることはなく長い時間を費やした。新しい先生は百恵ちゃんのあまのじゃくな性格を知ってか知らずか、はたまた同じめんどくさがりなのか教習所になかなか行かなくても詰めることなく放っといてくれて行くととても喜んでくれた。そうしてなんとか通い続けることができ、ギリギリではあったが残すところ卒業検定と本試験のみとなった。
しかしあと
「◯回チャンスがあってそれまでに行けばいい」
となるとなかなか行けなくなるのがクズの最もありがちな性質だ。明日こそ卒検に行こう、と思うと眠れず朝起きることができなかった。
「次こそは、次こそは!」
とは思うのだが結局最後の日まで行けなかった。
ラストチャンスの前夜、やはり眠れなかった。しかしもうお父さんの30万円を溶かす訳にはいかない、そう思った。百恵ちゃんだって謝りたくないのだ。百恵ちゃんは考えた。どうしたら起きて卒検を受けられるか。ふと友達が忘れて行った下剤が目に入った。
「お腹痛くなって朝方目ぇ覚めちゃうんだよね〜」
と言っていたのを思い出す。彼女は確かに言っていたのだ。
「朝、目が覚めてしまう」
と。一縷の望みをかけ百恵ちゃんは2錠の下剤を飲み、眠りについた。翌朝意外にも自力で起きることができた。絶好調の朝だった。テキパキと用意をし教習所へと向かった。下剤を飲んだことなどすっかり忘れていた。
試験官の先生と他の受験者二人と百恵ちゃんで教習車に乗り、試験がはじまる。百恵ちゃんはトップバッターだった。実は百恵ちゃんは運転が上手かった。仮免の試験でも筆記、実技ともに好成績だった。当たり前である。二回目だからだ。試験官の先生も百恵ちゃんのターンだけは安心していたことだろう。