しかし、次の瞬間には
立ち直る。
昂ぶる心を抑えつけるように、集中する。
わかっている、切る牌は1つしかない。ただ、確認しただけ。
静かに2枚切れのカンチャンを払う。
ピンズの場況がよく、ここらへんを重ねてのチートイツも頭をよぎったが、さすがに三暗刻含みのメンツ手は捨てられない。
リャンメンが埋まり、逆転へ一歩ずつ歩を進める魚谷。
これまでの出来事を反芻するかのように、一打一打ゆっくりと決断していく。
そしてとうとうその時は訪れた!
6巡目にまさかの逆転条件を満たしたテンパイが手元に踊る!
これもリーチするよりないと思うが、魚谷はここでも十分な時間を使う。
この局、小林はノーテンで伏せるはずなので、文字通りの最終局だ。
フェニックス最後のチャンスであり、最後の選択。そして最後の思考。
慎重に慎重に条件を確認した魚谷は、口を開いたらそこから感情が漏れてしまう自分を抑えつけるように、震える声で最後の選択を下した。
「リーチ…!」
振り絞ったその声は、かよわさと、力強さが同居したような、そんな最後のリーチ宣言だった。
人事を尽くして天命を待つ。
あと打ち手にできることは祈ることしかない。
1ツモずつ、祈るようにツモる魚谷。
みんなで、ここまで辿り着いた。
お願い、いて…!
一方で、小林も苦しかった。
安全牌がなく、魚谷の当たり牌が浮いている!
「こんなに長いと感じたベタオリは、これまでの競技人生の中で初めてでした」
あの競技歴の長い小林がそう語ったのだ。
ハネツモ条件だから、何かしらの手役は絡んでいる。
それはチートイか、あるいは三色か。
小林が考えを巡らせて切ったのは
筋のピンズだった。
苦しい、いかにも苦しい。いつ「ロン、チートイドラドラ」と言われてもおかしくはない。
次の巡目、さらに手が詰まる小林。
マンズは高く、イッツーもあり、全部切れない。かといって他の牌も…
これだけ苦しそうな小林も本当に珍しい。
ひたすら待つ魚谷。
小林は危険を承知で役牌のトイツに手をかけた。
魚谷の鼓動が高鳴る。
自身の待つ役牌の出も期待できるからだ。
数巡後、運命を分ける瞬間が訪れる。
小林は魚谷の当たり牌を重ねるが、その直前に魚谷が通した現物を合わせることができた。
もし、ここで現物ができていなかったら、魚谷の当たり牌を切っていた可能性が高い。
魚谷はツモれないまでも、リーチ後の捨て牌が弱くなってしまったのが辛いか。
運命の振り子はゆっくりとPiratesに傾いた。
最後のアガリ牌は脇に流れ、小林は完全にオリきれるようになる。