黒沢のアガリ形をじっと見つめる。
その後、さすがに落胆したような表情を浮かべた。
次局の川原の配牌。
ハネ満ツモ条件が残ったとはいえ、条件を満たすにはあまりにも遠い。
親の黒沢は6巡でこの形。
既にリャンメン2つのイーシャンテンでドラもあり、満貫ツモにでも仕上げれば、もう1局やるとはいえ他3者に倍満ツモ以上の条件を突きつけられる。
川原は中盤でやっと2メンツができ、を切った。
一気通貫を見てソーズの愚形ターツを残していたが、ここまできたらリーチタンヤオ平和ドラ1をツモって裏、というルートの方がよさそうだ。
が入ってのテンパイは取らない。
平和ドラ1の手をハネ満ツモに仕上げるには、リーチツモに加えて一発や裏ドラで2翻を補う必要があり、あまりに条件が厳しいからだ。
もしこの後にやを引いたなら、どうせツモ条件なのでフリテンリーチをかける考えだったと思われる。
それに、まだ最高の入り目が残っている。
ツモ。
それが川原の待ち望んだ、逆転に至る最も重要なピースだった。
ノータイムでのリーチ宣言は、リーチタンヤオ平和ドラドラ、ツモれば文句なしのハネ満。
待ち牌のは山に残り2枚、あとは運を天に任せるだけ。
願いを込めて伸ばした右手の先に・・・
その牌はあった。
予選に続く、オーラスでの逆転劇。
この日一番強かったのは、Mリーガーでも女流雀王・女流最高位でもない、女流桜花・川原舞子だった。
亜樹は、何度か入った勝負手がことごとく空振ったのが痛かった。
最後は厳しい条件を突きつけられてしまったが、どれか一度でも決まっていれば、展開は全く違うものになっていたはずだ。
ただ、これが麻雀であり、一発勝負の怖さでもある。
魚谷侑未も、一度は優勝に手がかかるところまで迫ったが、一歩及ばなかった。
ただ、粘り強さやフリテンリーチに踏み切ってツモる勝負勘は十分に発揮したと思う。
負けはしたものの、その存在感は抜群だった。
黒沢は試合後のインタビューで、最後の川原のリーチに対して一発消しをしなかったことに言及した。
結果論だが、もし魚谷がリーチ後に切ったを出来メンツからチーしていれば、川原のツモアガリを一旦は阻止できていた。
ただ、これを鳴かずに戦い、勝ってきたのが黒沢だ。
自身の麻雀を貫いて敗れたことに、ファンも悔しさこそあるものの、満足したところもあったかもしれない。
「変顔の女王」などと奇妙なニックネームをつけられた川原は、勝利インタビューでやっと表情を崩した。
顔でアピールせずとも、麻雀で自らの存在価値を示した一戦。
初めての舞台に、団体の代表として臨む。
そのプレッシャーたるや計り知れないものがあっただろうが、それを力に変えて戦い抜いた。
きっとこれからますます活躍し、強くなっていくだろう。
ファイナルが行われる12月、彼女がどのような打ち手になっているか、楽しみだ。
川原プロ、優勝おめでとうございます!
ファイナルでのご活躍を期待しております。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。