右利き雀士と左利き雀士

最強戦にも登場したことのある二人の女流プロ。

古谷知美 日本プロ麻雀連盟所属25期生
第14期女流桜花

 


小笠原奈央 日本プロ麻雀連盟所属28期生
第45期王位戦 4位
(動画リンク:小笠原奈央、メンホンで跳満!!【麻雀最強戦2018】)

この二人の共通点をご存じだろうか。
それは「普段は左利きだが麻雀だけは右で打つ」ということ。
麻雀は利き手で打つ人が圧倒的に多いゲーム。なぜ、あえて使いづらい反対側で、麻雀に向き合うのか。

古谷プロ「もともと左利きで、アルバイトしていたお店で右手にしたほうがいいと言われて打つ手を変えました」

小笠原プロ「プロの研修中に瀬戸熊直樹プロに右利きに直した方が良いんじゃない?とアドバイスをいただいて(もともとは左利きではあったが)右手打ちに変えました」

二人とも、まわりのアドバイスにより左から右に変更したという。瀬戸熊直樹プロといえば日本プロ麻雀連盟を代表する打ち手のひとり。


瀬戸熊直樹 日本プロ麻雀連盟14期生 TEAM雷電所属
鳳凰位、十段位等獲得タイトル多数
先日行われた最強戦2021男子プロ一撃必殺でも優勝し、ファイナルに駒を進めた
(動画リンク:麻雀最強戦2021 男子プロ一撃必殺 決勝戦)

後輩にどのようなアドバイスをした背景を聞いてみた。

瀬戸熊プロ「麻雀は基本的に右利きの人がやりやすい構図になっていて、左利きの人は動作が多くなって労力が大きい(=選手として不利なこともある)というのが理由です」

そもそも、麻雀というゲーム自体が右利きに打ちやすく作られているという事実。

ある若手左打ち雀士に聞くと、卓上に打つ手を出したとき、下家の右手や鳴いた牌ととぶつからないようにいつも気を付けているという。さらに鳴いてメンツをさらすとき、右手なら自然に牌を持ってくることができるが、左手だと手を左から右にクロスさせなくてはいけない。大きな動作ではないが、半荘の間に何度も鳴くとそれはそれでストレスとなりそうだ。
そういえば左打ち雀士はメンゼン派が多い気がするが、偶然だろうか。

また、動作以外にも

瀬戸熊プロ「これからは映像の世界になっていく段階で、左利きの人も設備によっては違和感なく撮ってもらえるだろうけど、
当時は固定カメラとか多くて、左利きの人は一回ツモってから、手を下ろしてから切るみたいな映像もあったし、
女流プロが多くなってきた所だったから、同じくらいの知名度でキャスティング悩まれた時に、サウスポーだから選ぶの躊躇されたら、本当に悔しいから、今のうちに右で打てるようにした方が、自分の為になるよって伝えたかな」

放送対局などでは腕で手牌が隠れてしまわないよう打つ手と逆側にカメラが設置される。
基本的には右で打つ選手のために機材セットが組まれているので、左利きの選手が打つ場合は対局ごとにセットの変更などが必要となる場合も多い。
また、放送のない対局の一部では内容を記録するために、採譜者が存在する。選手の手牌を一局ごとに記録する作業は打つ手と逆側に採譜者が座るため、右利きと左利きの選手が同卓の場合選手の間に二人が座って記録をすることになる。

たとえば新人の二名の選手どちらかを放送対局に抜擢する。そんな時、二人の雀力や知名度、実績が全く同じだとしたらカメラやセット移動の少ない選手が選ばれることもあるかもしれない。

と、ここまでは左打ちよりも右打ちのメリットをお伝えしてきたが、必ずしもみんなが右で打てばいいというわけではない。
たとえばセガサミーフェニックス近藤誠一プロ。Мリーガー30名中ただ一人の左利き雀士であり、その実力は多くの方もご存じであろう。


近藤誠一
最高位戦日本プロ麻雀協会22期入会 セガサミーフェニックス所属
最強戦2018優勝・最高位 他 獲得タイトル多数
(動画リンク:近藤誠一、国士無双!!【麻雀最強戦2018】)

著作「麻雀 理論と直観力の使い方」内の対談では、左利きと右利きでの脳の働きの違いや、ふだんの麻雀の中で近藤プロが右脳左脳の働きをどのように意識して打っているのかも語られている。

左打ちだからこそのうち筋や思考があり、それが近藤プロの唯一無二の強さに繋がっているのならば、自身の麻雀のため左利きを貫き通すのもまた、プロとして選ぶ道なのである。

小笠原プロ「私は左利きにポリシーがあって幼い頃、右手で書かなくてはいけない習字の習い事を辞めました。左手一本で生きてきたけど…でも、麻雀で瀬戸熊さん言われた時はスッと直そうと思えたし、今は直して良かった。きっかけをくれた瀬戸熊さんに感謝しています!」

あえて使いづらい利き手の反対側で勝負に挑むというのは、はじめは苦労もあっただろう。

彼女たちの現在の活躍は本人の研鑽と魅力にあることはもちろんだが、決して多くないチャンスをつかむため人知れず努力を行ってきたプロ意識がもたらした結果といえるだろう。

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