後手だろうとトップ目だろうと貪欲にアガリを求める、23年前の少女とオーバーラップした。
亜樹はトップ目に立ってなお、守りに入ることなく、その手で局を進行させていく。
東4局 新旧女流の意地がぶつかり合う
松嶋「全員の熱意にツモが応えているよう」
こう松嶋が言っていたように、この半荘は流局がなく、全員の手がぶつかりあった。
まずは瑞原が仕掛ける。
亜樹の独走に待ったをかけるべく、打でホンイツに一直線だ。
次に瑞原はこのをスルーした。
わかりにくいので牌図を見てもらいたい。↓
をポンすれば形は悪いもののイーシャンテンになる。普通はポンする場面だが、スルーした瑞原の思考はおそらくこうだ。
(何でも鳴けるならもちろんポンが正解。でもここはMリーグ、もう1つ鳴くと上家の堀さんはピンズを鳴かせてはくれないだろう。急所を鳴くか、もう1手進んでから鳴こう。)
この判断が吉と出る。
堀から溢れた唯一の急所を鳴いてテンパイ。
今シーズンに期する思いがあるのは亜樹だけではない。
瑞原は昨シーズン終盤、小林に頼りっきりになってしまったことを悔やんでいた。今年こそはPiratesの1/4として責任を担いたい。その思いが表情にも表れている。
そして瑞原がテンパイを入れた直後、亜樹の手が止まった。
のテンパイを入れていたところにを掴んでしまったのだ。
は亜樹の目から5枚見えている上に12000を放銃してしまったら、せっかくのリードがほぼ並びになってしまう。
ただ無謀に押しただけではない。・・… と字牌もまだ生きている状況で、はピンズの中でも通りそうだ。そしてピンズが確定しているわけでもない。
危険は承知。
でも私は目の前のテンパイを優先する。
当たっても振り出しに戻るだけなら、勝負を引き伸ばしたりしない!
新旧2人の女流の魂が、卓上でぶつあり合う。
…私はこういう意地の張り合いが見たかったのかもしれない。
負ければ失うという世界で、己の生命を賭け、理不尽が渦巻く荒波に身を投げる。
日常の中の非日常。
麻雀の熱い部分をこの瞬間垣間見た気がした。
2人のぶつかり合いで決着すると思われたが、この局は堀がチートイの1600でかわす。
南1局 「私はここにいる」
亜樹が攻撃の手を緩めない。
この夜、一番驚いたのがこの仕掛けだ。
あの亜樹が、トップ目で、このドラのカンチャンが残った不安定なタンヤオで仕掛けたのだ。
全員に対しての安全牌はない。
…もう他人のアガリを眺めて続けていた昨シーズンの面影はそこになかった。
下家の丸山が
ポン、チーと、マンズのホンイツテンパイを入れたが、
ドラカンチャンを埋めた亜樹の手にストライク。亜樹の攻めの姿勢が、丸山の満貫手を蹴り、トップを盤石なものにしていく。
23年前のあの日から今日に至るまで、亜樹は麻雀プロの最前線を張り続けた。
多くの期待を、多くのファンを、小さな背中に背負い続けた。
そうしていく中で、本人も無意識のうちに麻雀を置きにいってしまうようになったのではないか。
(こんな手で放銃したらファンに顔向けできない)
(ここで手役を狙わないと私じゃない)
(何があるかわからないからスリムにしよう)
その麻雀は、Mリーグにおいて厳しい戦いを強いられるようになった。
レギュラーシーズンは3年ともマイナスを喫してしまったのだ。
4年目に入り、複数の選手が入れ替わる中、私とて安泰ではないこと、このままではずるずると負けてしまうことを悟ったのかもしれない。
いろいろと推測してはいるが、どういう心境の変化があったのかは私にはわからない。
ただ、この日の亜樹は23年前の…そしてそこから23年間の経験をミックスさせた切れ味鋭い亜樹に仕上がっているように感じた。
「私はここにいる」
トップ目に立っても攻め続ける亜樹から、まだ最前線で戦い続ける意思を感じ取った。