麻雀界のガリレオが追った、ハードラックの向こう側とは【週刊Mリーグ2021レポート10月25~29日】文・須田良規

掴めば終了と思われるババではあるが、村上は平素でも、地獄待ちに打って仕方ないと思う打ち手ではない。

「まず【1ソウ】を切っておけば、一発の4000点分は損しなかった」
「そしてもしかしたら、次巡に松本が石橋のトイトイに打ったかもしれなかった」

村上から見て、【2ソウ】が場に3枚出ており、松本がメンツ手であるなら【1ソウ】【4ソウ】はもちろん危険スジの一つだ。
しかし、【1ソウ】は3枚切られているので、チートイツには絶対に当たらない。

思えば村上は一発目に【北】を掴んだとき、かなり考えていた。

おそらくチートイツであるが、メンツ手の可能性は完全に消去できるのか━━、
メンツ手だとして、【1ソウ】【4ソウ】待ちがあるのか━━、
チートイツだとしても、地獄単騎の【北】待ちになっているのか━━。

今局面を確認しても、ちょっと難しい。
メンツ手はやはりゼロとは言い切れないかもしれない。想定できるメンツ構成もカウントできなくはない。

村上は、試合中の極限状態でも、それを懸命に考えていたのだと思う。

視聴者のほとんどが、ただ抱いたであろう「村上はツイてない」という、
人間なら当たり前のように感じる印象。

しかし村上は、もう20年以上前からこう唱えている。

牌の並びはランダムだと。

誰かに与することも仇なすこともない。誰かの行動が影響を与えることも決してない。

かつては今よりもっと、麻雀に流れとか状態という概念が根づいていたこの世界で、
単身地動説を主張したガリレオのように、村上はそう言い続けていた。

当たり牌がそこにあったことをただ不運で片づけるのではなく、
ランダムに置かれたその牌に対し、自分の出来る最善は何だったか。

その模索を怠らないのが、村上淳という選手の根本なのだと思う。

世界中の誰もが不調だ不運だと牌の巡りを嘆いても。

放銃必至の地獄単騎を掴んでも。

麻雀界のガリレオだけは、確かにその向こう側をにらんでいたのである。

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