(いや、これでいいはずだ。)そう言い聞かせる瀬戸熊をあざ笑うように…
ツモ山にはがいた。
次の巡目
力なく切ったドラのが
宮内の手牌をじっと見つめる瀬戸熊の表情をカメラがずっと捉えていた。
いずれにしてもこれほど気合と悲哀を背中に宿らせる打ち手は瀬戸熊以外にいない。
しっかり耐えたおかげで2600が瀬戸熊の野望を打ち砕く決定打になったのだ。
かくして宮内は9割方最強位を手にするところまできた。
スポーツ新聞ならもう「宮内最強位誕生!」の見出しを打っているころだ。
女性最強位は17期(2005年)のプロ大会に二階堂瑠美が勝っているが、現行の統一戦になってからはまだ誰もその座についていない。
この時、宮内は最強位の感触を味わったに違いない。
そして物語はいよいよオーラス、大団円を迎える。
一瀬由梨の物語・戦場での落涙
約40000点差ある宮内との差を埋めるべく、一瀬は攻める。
まずは
さぁここから! というその時だった。
広くて静かな会場で、ただただ牌の音がして、そこに偉大なる先輩たちと卓を囲み、そしてその先輩たちが手を震わせて目の前の戦いに集中している。
そしてもうすぐこの戦いも終わりを告げる。
もう誰にも時間を止めることはできない。
ツモは戻らない。局も戻らない。
あとはただ1人の勝者が決まるのを見守るのみ。
その場にいることの幸せ。
同時に、その場にいることのプレッシャー。
様々な思いが交錯して、一瀬の心を震わせたのだろう。
瀬戸熊直樹の物語・受け継いだバトン
オーラス1本場。
瀬戸熊のツモる手に力がこもる。
6巡目にしてこの手牌である。↓
条件は倍満のツモであり、リーチ・ツモ・タンヤオ・ドラ3で6ハンだとしても、あと2ハンを捻り出さなければならない。
瀬戸熊はまずはタンヤオを確保するために、を切った。
さきほど「気合と悲哀を背中に宿らせる打ち手」と称したが、瀬戸熊の戦っている姿は、見ているものの胸を打つ何かがある。
最強戦では毎年のようにファイナルに進むものの栄冠が遠く、所属するプロ連盟では鳳凰位に3度輝きながら今季の成績不振が響きA1リーグからの陥落が決まったばかり。さらにMリーグでもチーム雷電は大きくマイナスをしていてバッシングも出ているほど。
「落ち目」
瀬戸熊は自嘲気味にそう語る。
しかし昨日ギリギリのところで敗退した多井が言った「セトが本気なったらこんなもんじゃない」の一言に胸を打たれた。苦楽を共にしてきた多井は、瀬戸熊の強さを誰よりも知っている。
盟友のバトンは、俺が引き継がなくては──
1つ1つ、祈りを込めてツモる瀬戸熊が持ってきたのは
をカンして…