4度の空振り、4度の放銃
それでもらしさを貫いた、
佐々木寿人の戦い
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2022年1月17日
2021年12月21日。
KONAMI麻雀格闘倶楽部は、大和証券Mリーグにおいて、チーム創設史上初となるレギュラーシーズン首位の座に立った。持ちポイントは400を越え、このまま勢いのままに駆け抜けるようにも思えた。
だが、そうはいかないのが今シーズンのMリーグである。1月に入って麻雀格闘倶楽部はトップなし、しかも1月2週目には悪夢の4連続4着となり、チームは5位まで急落、ポイントも1回の4着でマイナス域というところまで減ってしまった。
この状況を最も苦々しく思っているのは、やはり佐々木寿人だろう。昨シーズンに個人MVPを獲得したチームのエースは、今シーズン苦戦が続いている。1月に入って2連続4着となっていたが、エースの意地を見せるためにも、ここでチームの下降線を食い止めたい。
第1試合
東家:白鳥翔(渋谷ABEMAS)
南家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
西家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
北家:二階堂瑠美(EX風林火山)
この試合も、寿人にとって厳しい展開が続いた。東2局の先制リーチは白鳥に蹴られ、東4局ではチャンス手の1シャンテンから瑠美に3900を放銃。この失点で、4番手に後退してしまう。
迎えた東4局1本場。手の内にはドラ赤赤で満貫の材料はそろっているもののメンツはなく、愚形ターツも多いということで、仕掛けを考慮してをトイツ落とし、タンヤオへ向かう。
ポンから発進し、切り。アガリに向かって一直線に手を進める。安全牌を持って手を狭めるようなことはしない。
ここは他家の押し返しが来る前にアガリ切って2000-4000は2100-4100。寿人らしい力強いアガリで、これが反撃の狼煙となるかと思われたが・・・
南1局1本場、南2局2本場の連続リーチはいずれも流局。
そして南2局3本場、自身が出した供託リーチ棒を、自身の放銃によって堀にさらわれてしまう。ホンイツ赤の8000は8900、寿人はこれで再び4番手に後退してしまった。
南3局では、親番堀のリーチに対してドラ単騎待ちリーチをぶつけるも、瑠美のかわし手に放銃となり、不発。
ここまでの11局で、寿人は4度のリーチが全て空振り、4度の放銃があった。悪夢の5連続4着、自身の3連敗が目前。しかしそれでも、できるのは目の前の1局にベストを尽くすことだけだ。
南4局、寿人は配牌からあった4枚のを即座に暗槓した。現状4着目、ここは打点アップと共にツモ回数を増やし、一刻も早いテンパイを狙いたい。
だが、先制テンパイはトップ目に立つ白鳥だった。カン待ち、アガリトップだが打点もタンヤオドラ赤赤の8000と、他家の着順を動かすだけの破壊力がある。
そして寿人の手には、が浮いていた。まっすぐ手を進めていけば、どこかで出ていってしまうかもしれない。なんなら、この瞬間にでも。
寿人はを切った。このとき、寿人が見ていたのは下家の堀だったという。序盤からに続いてドラのを切っていて、普通の手ではなさそう。マンズの一色手と想定すれば、はいかにもほしそうなところ。それを考えて、を打たなかったのだという。
実際の堀の手がこちら。実際に、を鳴かれる可能性はあった。
次巡、ドラが暗刻に。これでとドラ3で4翻が確定、リーチしてツモればハネ満で、瑠美どころか堀までかわして2着で試合を終えられる。だが、テンパイ時にが出ていくケースもある。そうなれば試合終了だ。
どちらを引くかは、山との勝負だった。寿人が引いたのは。放銃を回避して放つ、逆襲のリーチ。はもうないがが残り2枚、うち1枚は赤。
先制テンパイの白鳥は、寿人に対してハネ満までは放銃してもトップである。だが彼は、寿人の2枚目の切りにめざとく反応している。3巡目にを切っている寿人が、手出しを挟んでさらにを手出ししたということは、その周りの牌を持っているということ。が4枚見えになったこともあり、白鳥は寿人の手にドラが暗刻であることを確信していた。放銃すればリーチドラ3の満貫スタート、2枚見られる裏ドラが合計で3枚乗れば、倍満放銃で3着まで着順が落ちてしまう。ましてや相手は寿人、こういうところでものすごく裏ドラを乗せてきそうな打ち手である。
もちろん、白鳥にはやなどの現物を抜く選択肢もあった。だが、ここは両無スジのをプッシュし、自身のアガリを狙う。マンズの一色手模様の堀がをトイツ落とししており、守備に回った可能性が高くなったのも大きいだろう。
だが、ここは寿人が勝った。ツモでリーチツモ中ドラ3赤のハネ満は確定。気になるのは裏ドラだ。もしそこに、まだ山に2枚あるが見えたならば、ドラ4が上乗せされて6000-12000。何と白鳥をも逆転してトップまで突き抜ける。
「寿人なら!」
Mリーガーの中でも、彼ほどそう思わせてくれる選手はいないのではないだろうか。
もちろん、そんなに都合良く物事が運ぶなんてのはレアケースだ。裏ドラは乗らず、この試合は白鳥が逃げ切った。だが、ここ数戦鳴りを潜めていた寿人らしい戦いが見られたことで、麻雀格闘倶楽部ファンや関係者にとっては、久々に納得できる試合となったのではないかと思う。