絶対にトップを仲間の元へ持ち帰る 信頼を力に変え、多井隆晴は可能性をつないだ【Mリーグ2021-22ファイナル観戦記4/25】担当記者:東川亮

「まだ行ける!」
配牌を見た麻雀格闘倶楽部ファミリーの、偽らざる思いだろう。タンヤオピンフ系の手牌で赤赤、6000オール、さらには8000オールにまで育つ可能性を秘めている。ましてや、打っているのは佐々木寿人だ。

だが、先制は多井。リーチタンヤオピンフ【3ピン】【6ピン】待ち。多井としては、ここをダマテンの2000点を脇からアガったところで、オーラスの堀に満貫ツモ条件を残してしまう。ならばリスクを負ってでもリーチで打点を作り、リードを広げにかかる。

寿人が多井のリーチ宣言牌【6マン】をチー。まだ1シャンテンだが、オリることはあり得ない。

そして【4ピン】【7ピン】待ちテンパイ。互いの待ち牌はそれぞれ山に3枚。あとはどこに何が積まれているか。

KONAMI麻雀格闘倶楽部のチーム紹介にある一文。

「“格闘”の名に恥じないよう、闘い抜いてNo.1を目指します。」

言葉通り、寿人は最後まで闘い抜いた。

そして最後は、前のめりに倒れた。その放銃を、その闘いを、誰が責めることができようか。

リーチタンヤオピンフ、裏ドラ1枚で8000は8300、これで多井がトップを我が物とした、かに見えた。

潮目をねじ曲げたマーメイドの逆襲

魚谷侑未の、苦い記憶。

2年前。
あと1牌で優勝というところまで迫りながら、彼女は、フェニックスは、栄冠に届かなかった。

魚谷は、あの日のことを生涯忘れないだろう。そして、まだ見ぬその先の景色を渇望している。

1人テンパイで流局した、南4局1本場。魚谷は4巡目にしてカン【6ソウ】待ちのテンパイを入れた。ただ、ソーズの変化や【赤5ピン】へのくっつきなどもあり、【2ソウ】【7ソウ】を切って外す打ち手が多いかもしれない。

だが、魚谷の選択は即リーチだった。親番で赤ドラ、ソーズは【3ソウ】が既に4枚見えで、納得のいく手変わりの保証もない。だったら、現状のテンパイを重く見る。

そして相手を押さえつけ、ねじ伏せに行く。待ってばかりでは栄冠をつかみ取れないことを、彼女は誰よりもよく知っている。

寿人の追っかけリーチを振り払う、値千金の【6ソウ】ツモ。

そこへ、裏裏のおまけがついて6000は6100オール。ここまで3度の放銃があり、起死回生の役満テンパイも実らなかった魚谷が、それでも強引に厳しい流れをねじ曲げた。

次局もタンヤオ赤赤でアガり切って2000は2200オール。これで目下のライバル・サクラナイツの堀を逆転して、2番手まで浮上した。もうひとアガリで、トップまで見える。

いちばん、トップを取りたかった

南4局【6ソウ】、1本場【2ソウ】、2本場では【6マン】
オーラスに入って3局、多井はずっと、第1打に中張牌を選んでいた。多井の得意とする「配牌オリ」、守備を重視した進行だが、それだけ多井には手が入っていなかったと言える。

南4局2本場では、それでもチャンタの仕掛けでアガリを狙ったが、テンパイする前に魚谷にアガりきられてしまった。多井はここでもまた、我慢を強いられていた。

だが、これ以上おとなしくしていては、魚谷の逆転を許しかねない。そこへ、局を流すにはおあつらえ向きの、【南】トイツ入りの好配牌が入った。魚谷の第1打【南】をポン、ここは真っすぐアガリに向かう。

魚谷も【中】を鳴いてアガリへと向かっていたが、先にテンパイしたのは多井。カン【4ソウ】待ちは、魚谷は止められない。

最後は魚谷に粘る隙すら与えず、多井がアガり切って試合を制した。渋谷ABEMASに関わる、チームを応援する人たちが何よりも待ち望んだ、エースの復活劇だった。

「いちばん、トップを取りたかった」
試合後、多井はそう語った。
エースと呼ばれ、チームを牽引する立場にありながら、ポストシーズンではこれまでにないほど苦しんだ。けれども、そんな多井を仲間が支えてくれた。胸を抉る不甲斐なさと、大きな感謝。それをぶつけたのが、この正念場での一戦だった。

おそらく、多井はファイナル最終戦を任されるだろう。それまでの結果次第で、求められるミッションは変わる。だけど、心配はいらない。

最高のチームメートたちが、最高のお膳立てをして、多井を最高の舞台へと送り出してくれるはずだから。

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