「はい」の返事は
きっと彼のもの
最後の最後まで勝負を楽しむ
サクラナイツの小さな天才
文・ZERO/沖中祐也【火曜担当ライター】2022年4月26日
Mリーグ最終日、最終戦。
この日のために選手たちは半年間、熱い戦いを繰り広げてきた。
最終戦を残し、サクラナイツ・フェニックス・ABEMASの3チームに現実的な条件がある。
おそらくMリーグは今後も続いていくし、優勝するチャンスはこれから何度もあるだろう。
しかし2021-2022シーズンは一度しか訪れない。
明日だった今日が昨日になり、やがて過去を形作っていく。
時の流れは一方通行であり、二度と今という時に戻ってくることはできないのだ。
だからこそ──
村上は勝てずに絶望したし
勝又は目を閉じ、天を仰いだ。
石橋が人目をはばからず、涙すれば
岡田は祈るようにツモ山に手を伸ばした。
そして、多井はずっと席を立てなかった。
振り返ると、麻雀は敗者が作るゲームなんだなということに気付かされる。
選手はわかっているのだ。
今という時は二度と訪れないことを。
全てはこの日のために。
凝縮された半荘が、幕を開ける。
【最終試合】
東家:滝沢和典(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
南家:多井隆晴(渋谷ABEMAS)
西家:近藤誠一(セガサミーフェニックス)
北家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
東1局、最初に抜けたのは親の滝沢である。
リーヅモチートイドラドラの6000オールで開局すると、返す刀で2600は2700オール、4000は4200オールと連荘し、持ち点は60000点を超える。
この展開を、悪くないと思っている男がいた。
ABEMASの多井である。
もう一度ポイント状況をおさらいしよう。
ABEMASはサクラナイツと84.0ptフェニックスと56.5pt離れている。
つまりトップを取った上でこの2チームを同時にマイナスに沈める必要がある。
滝沢がツモり続けてくれたおかげで「2チームを同時にマイナスに沈める」というミッションを自動的に達成してくれた。
あとは自分がアガって滝沢をまくりにいくだけだ。
もし抜けたのがサクラナイツやフェニックスだったら相当厳しかった。
一度抜けたチームを3着以下に落とすのは至難の業からだ。
優勝への青写真がくっきりと見えた多井だったが、迎えた親番で試練が訪れる。
(でチーしています)
近藤(下家)のリーチに対し、切りづらいをツモってきたのだ。
かといってやも通っているわけではない。
張り詰めた緊張感の中、多井は
を切った。
これは瞬間の危険度だけではなく、1手先の危険を回避した選択である。
近藤の捨て牌と照らし合わせてみてもらいたい。