一手遅れ、内川の2000オール(リーチ・ツモ・ドラ1)を許してしまう。
内川はさらに1本場で2600は2700オールをツモり、主導権を握ったままゲームは中盤へとむかった。
牌に遊ばれたたろう。
あのは捉えられないから仕方ない。
しかし、仕方ないと言っていられる状況でもない。
レギュラーシーズンのカットラインまで約300pt。まだ試合数があるとはいえ、もう危険水域まできている。バカヅキでもなんでもいいので、とにかく結果がほしい。
それはフェニックス・魚谷も同様である。
私は魚谷のこの言葉がずっと印象に残っている。
「敗者の上にしか勝者はいないので」
冒頭で話した通り、勝者は残り、敗者は去る。華やかに見えるMリーグの舞台でもそれは同じ。人より多く勝ってきた魚谷だが、それ以上に負けを体験しているし、負けて去っていく人を見ているからこそ、勝ちにこだわる勝負哲学は揺るがない。
ドリブンズとフェニックス、試合数的にセミファイナルへの望みはまだ十分考えられるが、現実的な計算すると両チームともが通過することはかなり薄そうだ。つまり、どちらか(あるいはどちらとも)は確実にレギュラーシーズンで姿を消す。
誰がチームを去るのか…なんて無粋かつ気の早い話はしたくないが、ドラフト1位で指名された魚谷ですら、Mリーグでの成績を見ると安心はできない。
当然、たろうも同様である。
一週間に一度の対局だが、ここに生き残りがかかっている。
そう考えると、奪い合っているのは点棒でもポイントでもなく、相手の人生と言えるのかもしれない。
あまりに悔しくて裏ドラを確認していなかった
「ロン、3200は3800」
たろうがリーチ・チートイツで内川の親を終わらせると、南1局には
魚谷とのめくり合いを制し、リーチ・ピンフ・赤・裏の8000で内川追撃の態勢を整えていく。
南2局、たろうが逃せない親番を迎える。
そのたろうはここからを切った。一打目のといい、ソウズのホンイツを残した選択である。
ところが
をポンして切ったのは。
たろうは内川(下家)の切ったに鋭く反応していた。内川は南家であり、生牌であるダブを切ってきたということはもう手牌に孤立字牌がなく、役牌に頼らずとも形が整っているという証だ。
そこで打点上昇はドラのに絞り、内川を迎撃できるように構えたのだ。
すぐに
待ちのテンパイ。
たろうの読み通り、この時の内川の手牌は
ここまで進んでいた。
「リーチ」
しかしリーチの声がかかったのは内川でなく魚谷。
たろうの待ちであるを引き込んでのリーチである。
いつになく魚谷の表情も気合が漲っている。
たろうはもうオリない。生き残りをかけためくり合い。
たろうか── 魚谷か──
「ツモ」
「500オール」
たろうが静かに手牌を倒す。安いが手応えのあるツモアガリ。
一方で魚谷は、この半荘何度もテンパイを入れるものの、あと1牌に恵まれない。
次局、今度は内川が泥臭いタンヤオのみ3フーロの300/500でたろうの親を流し南3局へ。この局が勝負の趨勢を決めた一局となったのだ。
南3局、
「勘弁してくれよ」
と3人の声が聞こえてきそうな親・内川のリーチが入る。
それも2巡目リーチだったのだ。
全員ベタオリしていたが、8巡目にとうとうたろうが手詰まった。