白鳥翔、意図と意志が成した単騎の一刺し【Mリーグ2022-23セミファイナル観戦記4/13】担当記者:東川亮

直後に白鳥もテンパイ。トップ目からの放銃だけは避けたいので、リーチは自重。

もちろんこちらは自重する理由などない。いったんはダマテンに構えた黒沢だったが、【5ピン】という強い牌を打つならばと、ツモ切りリーチ。【3マン】【6マン】待ちは【6マン】が瑠美の現物だったが、お構いなしだ。

「やべえよ・・・絶対やべえやつだよ・・・」
人はピンチに陥ったとき、つい笑いが出てしまうことがある。

そして、この男も決断を迫られていた。役なしのカン【6ソウ】待ちでテンパイしていた内川だったが、ラス【9マン】を引いて一気通貫が完成。赤赤で満貫【6マン】を切ってアガりきれれば、トップも現実的に目指せるようになった。だが、切れば黒沢のハネ満に飛び込んでしまう。そもそも、どう考えてもヤバイ黒沢のツモ切りリーチに、両無スジの【6マン】を押せるのか。

行く理由は、いくらでも探せた。しかし、場の状況や持ち点、待ち、あらゆる状況が内川にブレーキをかけさせた。

次巡引いたカン【6ソウ】は、決してアガリ逃しではない。今局の黒沢と意味合いは違うが、勝負を託せる手で勝負する、という点は一緒だ。待ちも打点も、そして出ていく牌も文句はない。

トップ取りへ、覚悟のリーチ。火花散るめくり合いを制したのは、

黒沢咲

9巡目にアガっていたはずの満貫から、倍の時間がかかった。しかし、打点も倍になった。リーチツモハイテイダブ南ホンイツイーペーコー、倍満のツモアガリ。

彼女のアガリは、人を惹きつけ、魅了し、心に情熱を宿らせる。
これが黒沢咲の「セレブ麻雀」なのである。

揺蕩う勝利の行く末は

オーラス、黒沢は一刻も早くリーチをかけたい状況だった。役なしカン【5ピン】とはいえ、テンパイなら即リーチをかける打ち手が大半だったと思われる。しかし黒沢はリーチをしない。【5ソウ】がドラ【2ソウ】と振り替わり、リーチをかければ7700スタートになるとしても、ダマテンを続行する。狙うはリャンメン変化、あるいは三色か、【東】満貫をつけられる形。

一方の内川も、テンパイにたどり着いていた。ただ、現状では愚形赤1、満貫ツモでもトップに届かないとなると、現状には不満だ。

内川の選択は【3ピン】を切ってダマテン【7ピン】との比較は、【1ピン】が早い相手が2人いる分、【4ピン】のほうが持たれていそう、と読んだか。

ただ、この【3ピン】は白鳥の急所だった。チーしてテンパイ、【5ピン】【8ピン】待ち。もし内川がリーチをしていたら、2600放銃でトップから陥落する白鳥が【3ピン】を鳴けていたかは分からない。

黒沢も、もう間に合わないとばかりにツモ切りリーチ。各者の思惑が複雑に絡み合う。

リーチを受けた内川は、そのまま勝負をかける選択もあった。ただ、引いてきたのが【4マン】

内川は黒沢の現物【7ピン】切りで、いったんテンパイを崩した。一発を回避しつつ、マンズを引いたら逆転のテンパイを狙いにいく腹だろう。

そこへ【3マン】を引いてきてしまっては、【赤5ピン】を切るしかなかった。

「ロン」の発声が重なるが、手を開けたのは白鳥。

タンヤオドラ3赤、8000のアガリは、初戦の多井の敗戦を払拭する、大きな大きな一勝を確定させた。

各者がそれぞれに独特かつ秀逸な選択を見せ、ひとつ何かが違えば、まったく別の結末もあり得た試合。わずか9局ながら見応えはたっぷりだったが、そんな戦いを制した本人にも充実感があったのだろう。白鳥はカメラに向かってウインクを決めながら対局場から去って行った。

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