直後に白鳥もテンパイ。トップ目からの放銃だけは避けたいので、リーチは自重。
もちろんこちらは自重する理由などない。いったんはダマテンに構えた黒沢だったが、という強い牌を打つならばと、ツモ切りリーチ。待ちはが瑠美の現物だったが、お構いなしだ。
「やべえよ・・・絶対やべえやつだよ・・・」
人はピンチに陥ったとき、つい笑いが出てしまうことがある。
そして、この男も決断を迫られていた。役なしのカン待ちでテンパイしていた内川だったが、ラスを引いて一気通貫が完成。赤赤で満貫、を切ってアガりきれれば、トップも現実的に目指せるようになった。だが、切れば黒沢のハネ満に飛び込んでしまう。そもそも、どう考えてもヤバイ黒沢のツモ切りリーチに、両無スジのを押せるのか。
行く理由は、いくらでも探せた。しかし、場の状況や持ち点、待ち、あらゆる状況が内川にブレーキをかけさせた。
次巡引いたカンは、決してアガリ逃しではない。今局の黒沢と意味合いは違うが、勝負を託せる手で勝負する、という点は一緒だ。待ちも打点も、そして出ていく牌も文句はない。
トップ取りへ、覚悟のリーチ。火花散るめくり合いを制したのは、
黒沢咲。
9巡目にアガっていたはずの満貫から、倍の時間がかかった。しかし、打点も倍になった。リーチツモハイテイダブ南ホンイツイーペーコー、倍満のツモアガリ。
彼女のアガリは、人を惹きつけ、魅了し、心に情熱を宿らせる。
これが黒沢咲の「セレブ麻雀」なのである。
揺蕩う勝利の行く末は
オーラス、黒沢は一刻も早くリーチをかけたい状況だった。役なしカンとはいえ、テンパイなら即リーチをかける打ち手が大半だったと思われる。しかし黒沢はリーチをしない。がドラと振り替わり、リーチをかければ7700スタートになるとしても、ダマテンを続行する。狙うはリャンメン変化、あるいは三色か、で満貫をつけられる形。
一方の内川も、テンパイにたどり着いていた。ただ、現状では愚形赤1、満貫ツモでもトップに届かないとなると、現状には不満だ。
内川の選択はを切ってダマテン。との比較は、が早い相手が2人いる分、のほうが持たれていそう、と読んだか。
ただ、このは白鳥の急所だった。チーしてテンパイ、待ち。もし内川がリーチをしていたら、2600放銃でトップから陥落する白鳥がを鳴けていたかは分からない。
黒沢も、もう間に合わないとばかりにツモ切りリーチ。各者の思惑が複雑に絡み合う。
リーチを受けた内川は、そのまま勝負をかける選択もあった。ただ、引いてきたのが。
内川は黒沢の現物切りで、いったんテンパイを崩した。一発を回避しつつ、マンズを引いたら逆転のテンパイを狙いにいく腹だろう。
そこへを引いてきてしまっては、を切るしかなかった。
「ロン」の発声が重なるが、手を開けたのは白鳥。
タンヤオドラ3赤、8000のアガリは、初戦の多井の敗戦を払拭する、大きな大きな一勝を確定させた。
各者がそれぞれに独特かつ秀逸な選択を見せ、ひとつ何かが違えば、まったく別の結末もあり得た試合。わずか9局ながら見応えはたっぷりだったが、そんな戦いを制した本人にも充実感があったのだろう。白鳥はカメラに向かってウインクを決めながら対局場から去って行った。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。