しかし肝心の鳴ける牌が勝又から降りてこない。
「普通に手を進めているのか……? 仮にこの後面子ができても出来面子チーしてタンヤオの安手アピールをしていくか……?」
そんな逡巡を入れた矢先……
勝又から舞い降りたのは絶好の!! これで勝又からのアシストを思う存分受けられる!!
「さあ待ってるぜ。いつも通り、今日もいっちょお願いしますよ。勝又サービスセンターの開店を。」
期待の一枚目は……!?
ん?
んん?
様子がおかしい。手から安全牌の字牌しかでてこない。
しかも……
チー!?!?!?!?!?
内川の眉間のしわも一層深くなる。
そりゃそうだ。内川は勝又に2000点以上の放銃で3着落ちとなる。それだけは罷り間違っても避けなければならない。
しかもこの状況、役牌が全枯れ、123の三色もがないと、そもそも勝又の手役が絞りにくい。本当にその手は和了れる形になっているのか。
「いつもなら即アシストが来るはず。なのになぜ!?なぜなんだ、勝又!?」
「いやあ、だって。」
「サクラナイツさん、ファイナル進出争いのライバルでしょ。」
そう、この時勝又が見据えていたのはポイント状況。
現状だけ見ると格闘倶楽部と風林火山は安泰に見えるが、まだ15半荘も残っている。
であれば下の争いは競ってもらえればもらえるだけ、上のチームは突破が容易になるし、この後自チームがポイントを減らした時にも楽になる。
前提が間違っていた。
勝又サービスセンターが開店するのは高宮に対してだけで、はなから内川に目一杯アシストする気はなかったのである。
なればこそ、親の本田がノーテンのまま終わる可能性もある以上、自身の聴牌を入れておいた。もちろんその結果高宮や内川に放銃して、自身のトップが確定して終わる分には何ら問題ない。あくまで完全アシスト体制ではないというだけだ。
内川からすればまさに青天の霹靂。いつもは頼もしいあの勝又が、今日は突然牙をむいてきた。
全ては勝又の思惑通りに事が進むかと思われたが、ここは親の本田が追いついての和了り。2600オールで一気に二着に駆け上がる。
「こんな見え見えの安手の内川にアシストしないで、本田にトップを捲られたらどうするんだ」
そういう声も多く上がっていた。
しかし点棒状況を見てもらうとわかる通り、本田の6000オールツモでもまだ勝又は捲られる位置ではない。4000オールを二回ツモられてもまだ同点で並ぶくらいの点差がついている。
一方で高宮と内川は常に和了り競争となる点差であり、局を早く進行したい立場である。本田以外の和了りでゲームセットと考えると、それこそ確率で考えるなら勝又が捲られる可能性は遥かに低いだろう。
であれば着順操作がローリスクでできる数少ないこのタイミングで、チームのセミファイナル通過のためにやれることは全てやる。軍師勝又の野望が確かにそこにはあった。
実際に、着順操作がしにくくなった【南4局1本場】ではいつも通りに勝又サービスセンター開店。内川へのアシストを決めて、見事トップ確定とした。
仮に勝又の着順操作が決まっていれば、この順位表のボーダー争いはさらに混沌としたものになっていただろう。
勝又健志、麻雀IQ220。そのまなざしが見通しているものは底知れない。
しかし見据えているものはただ一つ、「優勝」の二文字だろう。