「世界一おもしろい麻雀というゲームに感謝」 耳にこびりついて離れない 渋谷ABEMAS藤田監督のファイナルメッセージ【Mリーグ2022-23ファイナル観戦記5/19】担当記者:ZERO / 沖中祐也

一番安全な牌を選べと言われたら【6マン】のワンチャンスになっている【4マン】か。
しかし【4マン】はドラなので、カンチャンやシャンポンも考えられるし、【7マン】がカンされていても【4マン】【7マン】待ちだってありうる。
2巡凌げる【8ソウ】という手と迷ったが、勝又の手からこぼれたのは

【2マン】だった。
絶望的だったはずの黒沢の手がアガリ宣言と共に開かれる。

裏ドラこそ乗らなかったものの、12300の直撃に成功。

強気のヴィーナスの異名の通り、踏み込んだ選択が奇跡の決定打を生んだ。

勝又の不可解だったのは南1局だ。

対面の寿人のリーチを受けた勝又は、こんなドラも赤もない手から【1ピン】をツモ切って放銃した。
たしかにこの親は落としたくないが、黒沢とはそこまで遠くなく、無理する場面でもない。
終盤の2シャンテンから押すのは見合ってなさそうである。

では勝又はなぜ押したのか。
理由は3つ考えられる。

まず上家の多井の押し。
多井は寿人のリーチに対し、【8ピン】【6ピン】と明確に押している。

多井が押すと、多井がアガったり、寿人に放銃したりして自分の親が落ちてしまう。
まずはその多井におりてもらいたかったのだ。
4巡前、勝又は同様の理由で【4ソウ】を押している。

2つ目は【1ピン】で当たるならツモられる可能性は高い、ということ。
これは勝又がよく語っている理論なのだが、親番でどうせツモられる待ちなら押したほうが得ですよ、という理論。

3つ目は多井が押しているということは、多井がドラの【白】を持っている→寿人のリーチは安い、という読み。

実際多井はドラがトイツだった。

「リーチは安そうだし、多井さんをおろしたいし、押してるフリして形式テンパイを目指そう、【1ピン】【4ピン】だったらどうせツモられるし」
勝又の思考としてはそんなところではないだろうか。

3900の放銃となったが、被害は最小限だったと言えよう。

南3局。終盤に黒沢が

普段なら絶対にリーチを打つ手牌をヤミテンに構えたことで…

勝又がケーテンに走り、打たれるはずのない【7ピン】が打たれ…

多井の8000が炸裂。

「これが麻雀ですね」
黒沢にとっては僥倖の横移動が起きた。
麻雀には、あれだけ勝ちたくても勝てなかったのに、ふとホワイトナイトが現れて、自分に有利な展開になることがままある。

南3局

勝又が12000を寿人からアガって、いよいよ大団円の時を迎えた。

オーラス。
多井は身に降りかかる火の粉を払うように、次の手から【6ソウ】を切った。

メンホンチートイツのイーシャンテンを拒否し、この局で終わりにする意思表示。
この瞬間、今シーズンのMリーグの終焉までのカウントダウンの声が聞こえ始めた。

シャーレをバックに、多井が1牌ずつ河に牌を並べていく。
この最終戦の舞台で、多井は他チームの優勝を4年連続で眺めてきた。

悔しくて卓に伏したこともあった。
表彰式で涙を浮かべたこともあった。
仲間の前で嗚咽を漏らしたこともあった。

運ゲーと言われる麻雀という舞台でも、もうそろそろ報われてもいいだろう。
毎年優勝候補の最右翼に挙げられ、勝ちきれなかった5年間。

5年というと、Mリーガーなる直前に生まれた日向の娘が4歳になる時の経過だ。
もうサンリオのぬいぐるみがほしいと言い出す年齢である。

多井はどのような思いで、河に牌を並べていたのだろうか。

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