「私がトップを取っちゃたら最終戦が面白くなくなっちゃうんでー、勝負を面白くすることがー、」
「できたんじゃないかと思います・・・」
逢川はいつものように、ユニークな振る舞いと言葉で試合を振り返っていた。一見色物に見える彼女は、過去に女流雀王を3度獲得したほどの打ち手であり、これまでにも数々の修羅場を経験してきた。虚勢にも感じられるその言動は、もしかしたらいつもの自分を保つ、彼女なりの方法なのかもしれない。
第2試合結果
1位:早川健太佐藤孝行 +59.5
2位:しゅも +9.7
3位:一井慎也 ▲12.3
4位:逢川恵夢 ▲56.9
■4日目第3試合
「麻雀は見た目と中身でやるものだ 一井慎也、連盟A1リーガーの執念」
IKUSA準決勝、最終2戦はそれまでの結果によって、「5〜8位」卓と「1〜4位」卓に分けられる。第3試合は「5〜8位」卓となり、選手たちはまず卓内トップを目指し、その上で結果を待つことになる。
IKUSAで服装が話題になった一井、最終日は人気ゲーム「星のカービィ」パーカーで登場した。
東1局3本場。一井は2局前に浅井へ満貫を放銃し、点数を減らしてしまっている。この局は序盤からピンズのホンイツに決め打つ進行。一戦勝負であれば、打点を稼げるチャンスがあるなら狙っていきたい。
この決断が功を奏した。佐藤のリーチを受けるも門前ホンイツで仕上げ、ハネ満ツモ。一気に点数を回復する。思い切った進行が見事にはまった一局となった。
東2局には、一瀬の待ち、佐藤のカン待ちのリーチがかかったところで、立て続けに2人のロン牌を引き込む。5枚あるは全てリーチ後につかんだものだ。まさにカービィのような吸い込み、もちろん吐き出さずに流局へと持ち込み、失点を最小限に防ぐ。
一方で、東4局には的確なターツ選択で、先制の待ちリーチ。
だが、トップ条件の一瀬もテンパイし、追っかけリーチ。この時点で、一瀬の待ちは2枚ずつあったのに対し、一井のはがなかった。一井が勝つにはを引き込むしかない。
状況は不利だ。だが、そんなときにもアガリ牌を吸い込むのが・・・
カービィの力、いや、連盟A1リーガーの力ってものよ!
一井が力強くを引き込んで2600オール、3者を突き放して大きなトップを獲得。この時点で首位に浮上し、決勝進出を確定させた。
苦戦しながらも要所を締め、勝つべき局面でしっかりと勝つ。そうなのだ、この男は勝又健志や佐々木寿人らと同じ、日本プロ麻雀連盟のA1リーガーなのだ。ただのアバンギャルドな格好をしている面白おじさんではないのだ。
・・・たぶん。
第3試合結果
1位:一井慎也 +71.8
2位:一瀬由梨 +11.9
3位:浅井堂岐 ▲15.2
4位:佐藤孝行 ▲68.5
■4日目第4試合
「3人中1人はここで散る そのオーラスには、麻雀の希望と絶望があった」
一井が首位に立ったことで、上位卓は2位・3位・4位・5位の対決となった。よほどのことがない限り、この中から一人が脱落することになる。特に逢川・しゅも・早川の3名は20ポイント以内の差なので、ラスを引かなければ勝ち抜け、ラスれば敗退という、分かりやすい構図が生まれていた。
そんな運命の一戦は、逢川からしゅもへの満貫放銃で幕を開けた。高いダマテンで回避が難しいとはいえ、初戦から逢川には逆風が吹く。
中盤にかけては、5位スタートで唯一勝ち上がりに条件がつく志岐が、5連続のアガリで大きくリード、決勝進出の切符を手繰り寄せた。
オーラスを迎えた段階で、着順勝負の3者は1万点以内の差のなかにひしめいていた。このままだと早川が敗退だが、3200点差の逢川をまくれば逆転突破、2着目のしゅもとて早川に満貫を打ち込めばそこで終わってしまう。そして逢川にしてみれば、首位で最終日を迎えたにもかかわらず連続ラスで敗退など、決して受け入れられるものではない。
テンパイ一番のりは逢川。待ちは直前に1枚切られたカンで現状は役なし、を引けばタンヤオ、高目三色の手変わりもある。
逢川の選択はテンパイを取るもダマテン。手変わりを見たのはもちろん、おそらくある程度向かってくるであろう早川に対し、無防備になるのを避けたところもあるかもしれない。リーチ棒を出せば、条件も軽くなってしまう。
リーチをしていれば一発ツモで満貫だった、は結果論の極みであり、今回はリスキーな選択をしなかったにすぎない。それに、この1000オールによって、逢川は次局をノーテンで終われるようになった。価値は決して小さくはない。