王の中の王たる力を証明せよ
浅井堂岐、逆襲の一撃
【決勝卓】担当記者:東川亮 2023年6月25日(日)
麻雀最強戦2023、タイトルホルダー頂上決戦・決勝卓。
出場する選手のいずれもが大きな勲章を手にしての参戦、まさしくトップオブトップを決める戦いである。
A卓から勝ち上がったのは、永世将王・忍田幸夫と雀王・浅井堂岐。
忍田が大量加点で1席を確保すると、最後は3者競り合いのなかから浅井がフリテンリーチを見事にツモって条件をクリア、決勝卓へと滑り込んだ。
B卓から勝ち上がったのは、王位・石井良樹と令昭位・楢原和人。
Mリーガーの仲林圭と魚谷侑未が圧倒的な支持を集める戦いだったが、見事な麻雀で2人を撃破した。
8人の王者が4人に絞られ、決勝卓で勝つのは1人だけ。
果たして、勝者は。
東2局、浅井が最初のツモの前にオタ風のをポン。手の内はマンズが多く、ドラのが2枚。ホンイツだけなら少々躊躇してしまう鳴きだが、打点が見えるなら話は別。積極的に仕掛けていく。
この仕掛けが功を奏し、ドラを暗刻にしてのテンパイ。
待ちも良く、打点も十分だ。ただ、対面に注目していただきたい。
対面の石井は、この形からノータイムでをツモ切っている。
オタ風を鳴いて役牌もかなり見えている状況、浅井の本線はドラ色のホンイツに見えるが、それでもお構いなし。
楢原の切ったをチーして手を進めるが、それでも形はまだまだ遠い。
また、楢原もリャンメン2つの1シャンテンにとれるところからを暗槓、あえて受けを狭くしてまで打点アップを狙う、強気の選択をしている。
結果としては浅井がツモって2000-4000。ただ、石井や楢原のアグレッシブさも目立った一局だった。そして後から振り返れば、この局の時点で既に、後の激戦の予兆は見えていたのかもしれない。
次局は楢原が石井からドラの5200を出アガリ。
東4局は石井がリーチ一発ツモドラ裏の2000-4000。赤のない対局ではあるが、忍田以外の3者が中打点から高打点のアガリを決め、東場は4 局で終了した。
南1局には、一つ興味深いシーンがあった。先制テンパイは親の浅井。
ピンフのみのテンパイを入れると、いったんはダマテンとする。この手はドラの引き、もしくはを引けばタンヤオ高目三色と、打点が大幅アップする余地がある。
同巡、忍田からがツモ切られるが、
浅井はアガらず、直後にツモ切りリーチをかけた。
浅井がダマテンにしたもう一つの理由、それがこのツモ切りリーチである。
現状微差の2番手で、ピンフのみとは言えアガればいったんはトップ目に立てる。しかし全員がトップを狙ってくる状況において、その差はあってないようなものだ。
一方で、このツモ切りリーチで手が開けられたとき、相手はどう思うか。見逃された忍田はもちろん、他の2人にも「浅井はそういうこともやってくる」と情報がインプットされ、その後の押し引きに微妙なノイズが混じることになる。その情報を与えることによる紛れが自分に有利に働くことを、浅井は狙ったのだ。
点数状況、局の進行状況、手牌、そして一発勝負の決勝という舞台、全てがマッチしたことによる、浅井の高度な戦略である。
が通った直後のツモ切りリーチで、浅井の河にはがある。そこで楢原が中スジのはずのを切り、待ちに放銃。打点こそ2900だが、相手に与えた影響はそれだけにとどまらないだろう。
南2局1本場、先制リーチは浅井。ピンフドラ1の待ちで、アガれば1局消化できる上に小さくない加点ができる。
親の楢原も追いつく。待ちこそカンとよくはないが、ドラドラで打点の面では浅井より上。
このリーチ対決を制したのは親の楢原。自身がをツモ切ったことでスジになり、が浅井の現物だったこともあって、終盤に石井から打ち出された。しかも裏ドラが2枚乗って12000。
楢原はこの一撃で浅井を逆転。
石井としては形を崩しての放銃だっただけに、実際の失点以上にダメージは大きい。もともとこの試合でも幾度となく強気の攻めを見せていたが、ここは退いたところを打ち取られた格好になった。
だが、この一撃が石井に腹をくくらせる。彼の二つ名は「強引グマイウェイ」。強引にでも、最強位に続く己の道を進むしかない。その姿勢が次局、衝撃のアガリを生んだ。