ロン牌を吸収しての待ちリーチが打てる。
解説の朝倉康心を「完璧だ」とうならせた、鮮やかなテンパイ。
ただ、良い手順を踏めたとしても、それが結果に結びつくとは限らないのも麻雀だ。この局も中田のアガリは生まれず、その後も本田、内川に追いつくことはできないまま、試合を終えた。
なお冒頭の本田への一発放銃に関しては、守備に回るには巡目が早すぎて完全安全牌もなく、着落ちのリスクがない上に着順アップを狙える手牌だったことから真っすぐ打ち抜いた結果だと、ここで補足しておきたい。
中田のMリーグ入りに関しては、プロ歴がまだ2年そこそこと短いこと、そして何よりも「元乃木坂46」という華やかな経歴が色眼鏡となってか、実力を疑問視する声も少なからずあった。
もちろん、他のMリーガーと比べて場数や経験が足りないことは否めないし、実力だってまだまだ足りていないかもしれない。
一方で、自分は開幕前から何度か中田にインタビューをする機会があり、彼女の生の声を、そして思いを聞いている。そこで感じたのは、Mリーガーとしての自分に課せられる役割や期待への責任、そして自身に否定的な声が飛ぶことへの覚悟と、それをはねのけて強くなろうとする強靱な意志だ。
多井隆晴、勝又健志といった歴戦の猛者が、「Mリーグの1試合は通常の100試合、200試合に相当する」と語るように、Mリーグの重圧のなかで打つ経験は、選手を大きく成長させる。長くMリーグを見てきた方であれば、そうした選手の名前が頭に浮かぶのではないかと思う。
その意味では、中田花奈の成長物語は、まだ始まったばかりである。
そして、今はMリーグをきっかけに麻雀を始める人も多くなっているが、まだ発展途上である彼女は、そんな人たちにとって自身を重ねながら応援できる存在となれるかもしれない。
アイドルではない「麻雀プロ・中田花奈」が、Mリーグを通じてどんなふうに打ち手として、Mリーガーとして大きくなっていくのか。その軌跡は、今シーズンの大きな見どころの一つと言ってもいいのではないだろうか。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。