Mリーグの海に
潜むリスクと
リターンを
見極めろ
瑞原明奈、
勝利へ向けた
決断の舵取り
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2021年11月8日
勝負事において禁物と言われるとはいえ、麻雀に「たられば」はつきものである。あのときあの牌を切っていれば、あるいは切らなければ・・・そんなことで悶々とした経験は、麻雀を打っていれば誰しも経験しているはずだ。
一方で、一つの決断が結果として勝利を決定付けるのも、また麻雀の面白さと言える。Mリーガーたちがどの場面でどんな決断をするのか、結果だけでなくそこに至る過程・ターニングポイントを見ていくのも、Mリーグを楽しむ要素の一つだろう。
第1試合
東家:瑞原明奈(U-NEXT Pirates)
南家:松ヶ瀬隆弥(EX風林火山)
西家:瀬戸熊直樹(TEAM雷電)
北家:多井隆晴(渋谷ABEMAS)
東1局、松ヶ瀬の手はハッキリ言って勝負にならないように見えた。マンズのリャンメンターツを払い、国士無双や混一色などは残すものの、基本的には守備メインの進行だろう。
ソーズが寄ってきて混一色が見えてきたが、まだ遠い。ここで松ヶ瀬は、暗刻になるはツモ切った。手役をチートイツに絞ることで、打点と守備力の両方を担保しつつの進行。とは言え、それでも1番手ではない自覚はあったはずだ。
先制は瀬戸熊、待ちリーチ。松ヶ瀬はチートイツの1シャンテンまできていたが、瀬戸熊の現物だったドラをあっさりと手放した。 打点狙いでを残す打ち手もいそうだが、後手から甘えた打牌はしない。これが、松ヶ瀬の麻雀が「繊細」と評されるゆえんだ。
14巡目で松ヶ瀬がテンパイ、との選択で8mを打った。通っているのはだったが、待ちでは打点は3200、一方でなら12000と、手役の価値がおよそ4倍違う。また、は2枚見えながら瀬戸熊の現物、2枚目は直前に多井が切っていて、このタイミングなら狙えそう。そしてもし今後危険牌を引いたとしても、を切って粘ることもできる。打にリスクがあるのは承知、メリットがそれを上回るという判断だ。
残る1枚のは、多井の手にあった。多井も、松ヶ瀬のにただならぬ気配を感じたはずだ。ただ、そんなに都合良くで待てるのか。多井は先ほど通ったを並べた。
12000。
開局から多井が点数をほぼ半減させるという波乱のスタート。だが、最短8局で終わったこの試合において、満貫以上のアガリはこれが最後だった。
東3局の先制は瑞原。ジュンチャンも見えるが局も中盤、という都合の良いツモを期待するよりも、目先のピンフドラ1をリーチする方がいいだろう。
これに対し、いったんは現物を抜いた親の瀬戸熊が粘る。ただ、タンヤオに向かえばは出ていく牌。が早く、ここで放銃するかに見えた。
しかし瀬戸熊の決断は、タンヤオマックスに取らない打。
最後はテンパイからが打ち出されて3900の放銃となったが、他の牌は切ってもを最後の勝負牌にするという、瀬戸熊の意志の見えた打ち回しだった。
瀬戸熊は次局、東4局でも印象的な打ち回しを見せる。4巡目で役なしテンパイを入れ、ダマテンに構えて役ありへの変化を狙う。
直後、好配牌を手にしていた親の多井がリーチ。
瀬戸熊としては、早い段階での好形変化なら追っかける腹は決まっていただろう。ただ、タンヤオに変化して出アガリできるようになったものの、リャンメン待ちなどへの手変わりは生まれず。そして13巡目、無スジの引き。ここでギブアップかに思えた。
だが、瀬戸熊は押した。ラス目の親リーチに対して1300の手で押すのは、打点的には見合っているとは思えない。それでも押したのは、ピンズやマンズで通っているスジが思いの他少ないこと、自らの待ちが多井の中スジで狙えそうなこと、そして多井の親を蹴ることに大きな価値を見出した、ということか。
次巡、松ヶ瀬が手から抜いたを捉え、1300の出アガリ。
打点こそ小さいが、多井のリーチは満貫、ハネ満もあり得ただけに、それを阻止できたのは大きいだろう。
南2局、瑞原がポンから仕掛けて孤立の切り。他は全てターツ候補であり、を使っての2600ならトップ目松ヶ瀬を逆転して親を落とせる。
そのを松ヶ瀬がチーしてドラを切り、テンパイ。瑞原からは最低でも1シャンテン、テンパイも十分あるように見えただろう。
その後、瑞原はカン待ちテンパイで追いつく。ちなみにこの段階では、4枚目のは切る考えだったという。