優の立場からすると、太ほど前に出なければいけない局面ではない。
元々パイレーツは首位なので、トップが必須ではなく、何よりこの試合もトップ目なので加点が必要な局面でもない。
そして太がリーチをかけているので、優が何もしなくても大三元が阻止されるケースだってある。
しかし、この局面を見ていたパイレーツサポーターは「優なら前に出て、自分の手で勝利を掴みとる」と思った人が多いのではないだろうか。
先述の通り、オリの選択肢も充分にあり得る場面。
太と堀の待ちであるは山に4枚。対して優の待ちのは山に3枚。
優が前に出て、そしてめくり合いに勝てる保証なんて、そんなものは当然無い。
しかしこれまでも、優は誰よりも前に出て勝ってきた。
レギュラーシーズンを+887.6ptの断トツで通過したパイレーツ。そのポイントの約半分を稼いだのが優だ。
個人スコアは+437.7ptで、Mリーグ記録となる個人5連勝も達成している。
前人未到の大記録を残しても、 鈴木優はあの日の想いを胸に闘志を燃やす【Mリーグ2023-24観戦記 12/25】担当記者 #江崎しんのすけ
麻雀はゲームの性質上、ツイていなければ勝つことができない。優の今シーズンも、ラッキーな局面は当然多かった。
しかしそれだけでは突破できないような困難な状況も多々あり、誰よりも一歩踏み込むことで切り開き、チームに最善の結果をもたらしたのだ。
どんな状況でも、優ならなんとかしてくれる__
チームに加入して約2年。優はパイレーツにとってなくてはならない存在になった。
優がリーチをかけた直後、決着は訪れた。
親番でラス目だった瑠美が2件リーチに押し返そうと、優の宣言牌をチー。そして打とする。
このを優が捉える。
なんと裏ドラは7m。リーチドラ2裏2の満貫を出アガり、優が更にリードを広げた。
序盤から積極的な攻めでリードを築き、常にトップを維持していた優。しかし他家も優にトップを取らせまいと奮闘し、僅差でオーラスに突入した。
トップの優52,300点に対して、2着の太が47,800点とその差4,500点。供託・本場があるので太は700・1300のツモか3,900点の出アガリで逆転する。
ラス親の瑠美はトップを狙ってくるし、3着目の堀は優がトップにならないよう立ち回る可能性が高い。つまりこの局も、優自ら勝負を決めに行くしかない。
まとまりの無い配牌だったが、ツモが効いて6巡目にリャンシャンテンになる。
ターツが足りたので安牌の字牌を持って打かと思われたが優はを選択。
そして次巡を引いて打。安牌を一枚も持たず目一杯に構える。
を残すと・のシャンポン受けが残るが、が1枚切れており何よりを切ると親の安牌が何もない。
ただここでも優は、自身で勝負を決める一番強気な打牌を選択する。このを残しておくことで
・をポンした片アガリ三色のテンパイを取ることができるのだ。
リャンシャンテンの時にこの構想が無ければ、打としてしまいテンパイまでたどり着けていなかったかもしれない。
優がをポンした時、役牌は場に全て出ていたため、他家から見ると優の手役は三色だと読まれる可能性が高い。
しかし河から345なのか、それとも456なのかどの三色までは読むことができず、仮にテンパイしていたとしても当たり牌までを絞り込むのは困難だ。
直後、堀がを引く。
先ほどの理由から特にが危ないわけではなく、を切っておくと引きでタンヤオに変化するため、堀はをツモ切り。
このを捉え、優が自身の手で勝利を決める。
ちなみにが切られたとき、太の手はこうなっていた。
はフリテンだが、手広いイーシャンテンである。
テンパイできれば堀からの差し込みも期待できる状況だったので、もし優のテンパイ巡目が遅かったら、試合の結果はどうなっていたか分からない。
対局後のインタビューにて、優はチームの状況を聞かれ「決して安心できるポイント差ではない」と語った。
優の考えは正しい。残り6試合とはいえ全てが直接対決なことを考えれば、300pt差がひっくり返ることは充分にあり得る。