最後の一打に込めた想い
文・小林正和【金曜担当ライター】2024年9月27日
南4局
こちらはオーラスを迎えた親番・多井の手牌。
を切るとピンフ・赤の待ちという牌姿は言うまでも無い。
そして、持ち点は以下の通りとなっている。
◆点数状況
多井:46,200
仲林:26,700
岡田:15,300
瑠美:11,800
2着目の仲林とは19,500点差。つまり仮にリーチ棒を出した後、満貫を放銃しても着落ちにはならない。
また3着目の瑠美に至っては、30,900点差と跳満を打ち上げてもトップ確定。攻め得な様相を呈している。
一回り全体を見渡す多井。
その右手の行末は
ではなく
であった─────────────
先週末、野球界において50本塁打・50盗塁という歴史的な偉業“50-50”が達成され、世間が沸いた。
そして
前人未到の領域に、いとも簡単に足を踏み入れたそのスーパースターに人は更なる活躍を求める。
───とある休日。
何気なくスマホで見ていたメジャーリーグの試合で起きたシーンでの事だった。
(おっ!ショウヘーイ出てるやん。今度は“60-60”やったれー!!)
熱烈なファン(←にわか)の心の声援に!?後押しされ、先頭打者として打席に入っていくオオターニサーン。
しかし、
《審判》
「ボール!……ボール!!………ボール!!!」
ボール・スリー判定に、大きな弧を描いた曲線を期待する観客からは少しため息交じりの声が漏れる。
(まさかフォアボールなんていう味気ない結果で終わるんじゃ…。)
《審判》
「…………ボール!フォアボール!!」
際どいコースだったのでスイングをする事も可能であったが、ここは見送る選択へ。軽くパーンっと手を叩き、白い歯を見せながら一塁へと走っていく皆んなのヒーロー。
本来なら嬉しい四球も、見ている側からすると貴重な1本を目の当たりにする機会が減り複雑な心境でもある。
(ホームランが駄目ならば今度はイチローが記録した盗塁数の更新だ!)
人は無いものねだり。新たな歴史的瞬間を目にしようと別の願望を抱く。
ところが、
《実況》
「あぁっ!キャッチャーがボールを後逸!!その隙に大谷は二塁へと進塁しています。」
こちらも際どいタイミングだったので立ち止まる選択もできた。
それでも地区優勝をかけたライバルチームとの天王山において、全力プレーをする大谷翔平の姿がそこには映し出されていたのであった。
それは正に
“自身の記録よりもチームの勝利の為に”
秋めく季節となり、7年目を迎えたMリーグ。
開幕前の囲み取材において、その言葉を熱く語った選手が存在していた。
多井隆晴/渋谷ABEMAS
「4人で一つのチーム。僕、そこに目覚めたんですよね。ここアガれば個人スコア賞だとしても、次のステージに進めるならば僕は親で伏せますよ。」
初年度から過去6年間において一度たりともレギュラーシーズン敗退のない渋谷ABEMAS。
まだ始まってから七日目が経っただけとは言え、その絶対王者が
全チームにおいて唯一トップ無しと、まさかの最下位に甘んじている。
そんな嫌なムードの予兆を断ち切るべく、塚田監督が本日の第一試合目に送り出したのはチームの顔、しいては発足時ドラフト1位メンバー・Mリーグの顔とも言える多井隆晴であった。
昨年度は「温存作戦」と言わんばかりに、10月半ばまで出番の無かったキャプテンが早くも今季2試合目の登板である。