祈れ、最後まで
〜黒沢咲が起こした奇跡
文・千嶋辰治【木曜臨時ライター】2025年5月1日
セミファイナル最終日を明日に控えた4月30日。
私はTEAM雷電の瀬戸熊直樹に連絡をとった。
ボーダーライン上に立つ雷電と、その直下で結果を待つKONAMI麻雀格闘倶楽部の差はわずか。
最後までゲームが残っている方が有利とされるセミファイナルだが、今回のケースではどちらが有利なのか?
また、選手はどう思っているのだろうか?
その辺りを瀬戸熊に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「僕は常々TEAMの勝利を一番に考えていますので、何があってもファンのためにベストを尽くしたいと考えています。
試合に出る、出ないに関わらず、出る時にはしっかり準備し、出ない時は出る人が一番良い精神状態で送り出すのが僕の仕事と思っていますので、そこをしっかりやりたいと思っています。」
漢気あふれる瀬戸熊だから、
「僕が出ます。そこで決めます。」
という言葉があるのではないかと思っていたので、このコメントには少し意外な印象を受けた。
しかし、翌日になって先発選手が黒沢咲と発表されて、瀬戸熊の言葉の真意が分かった。
黒沢は前回の登板でトップを獲っており近況好調。
監督の采配か、はたまた瀬戸熊の進言か… それは知る由もないが、黒沢の持つ「勢い」にかけた起用法は実に雷電らしいと感じた。
ただ、その裏で瀬戸熊は黒沢のことを案じていたのだろう。
この難しい局面を任される黒沢にかかる重圧はいかばかりか。
先発選手が決まってから、瀬戸熊はそのことだけを慮っていたように思う。
心からチームメイトを信頼し、最高の状態で舞台へ送り出す… そのために瀬戸熊は前日から戦っていたのだろうと思う。
そんなチームメイトや全国のユニバースの期待を背に、黒沢が大一番に挑む。

第1試合
東家:竹内元太(セガサミーフェニックス)
南家:渡辺太(赤坂ドリブンズ)
西家:黒沢咲(TEAM RAIDEN / 雷電)
北家:鈴木優(U-NEXT Pirates)
その黒沢だったが、立ち上がりは思わしくない。

太への3,900放銃を皮切りに、

元太の4,000オール、さらに、

優のリーチ一発ツモ三暗刻ドラウラ3の4,000-8,000を浴びせられてラス目に押し込まれてしまった。
南3局。
親番を迎えた黒沢だったが、持ち点はわずかに10,500点。
得点状況は2強2弱状態。連対が月ほど遠く感じられる。
しかし、黒沢は諦めなかった。

わずかな光が見えるその先へ、黒沢は手を伸ばす。

手を伸ばした先には。
感触の良いツモが来た。

2巡目には。
ここまで我慢を強いられてきた黒沢。
退けない勝負所が訪れたようだ。
しかし。
黒沢をラスに押し込めておきたい太にも手が入っている。

既にファイナルの戦いが始まっていると言っても過言ではない他3チームにとっては、雷電と麻雀格闘倶楽部の争いよりも目の前のポイントの方が大事。
失点の芽を摘むという意味でも、この局は黒沢に対して辛く打っておきたい。