
それでも、醍醐は真っすぐに通っていないを打ちぬいた。
下は点差が離れているため、3着になることがほとんどない。
前述した通り、萩原への放銃で2着は、フェニックスにとっては次善ではある。
ドリブンズやパイレーツにトップを取られるよりは、良い。

親番瑞原から打たれた役牌をポンしてイーシャンテン。
形はまだ苦しいが、戦える形にはなった。

親番瑞原も追い付いた。
を暗槓して、カン
のリーチへ。ツモれば一気にトップ集団にも手が届く。

とり残された太も、難しい決断を迫られていた。
萩原に放銃し得るを打つ。最悪なのは醍醐にトップを取られることか、瑞原のツモで大きく点差が離れること。
醍醐と同じように、太も萩原のトップは自分がトップを取れないなら次善ではある。
だが、瑞原が萩原に放銃して4着になるパターンも存在する以上、全て差し込みに回って良いかは微妙な所だった。

萩原から放たれたをチーして、醍醐がテンパイ。
カンは残り1枚だが、あの手牌からアガればトップの所までこぎつけた。
瑞原に放銃は最悪だが、手牌がこうなった以上は戦う他ない。

ファイナル初戦を占う、最後のめくり合い。
勝ったのは――

セガサミーフェニックスの支柱醍醐大の、乾坤一擲のカンだった。


見事な踏み込みで、ファイナル初戦のトップを獲得した、醍醐。
暫定ではあるが、1試合で見事チームを首位に押し上げた。

結果的には山に残り1枚の牌を捲り合いで勝てたのが大きかったが、その土俵に立つことがいかに大事かということを教えてもらった気がする。
トップの時はツイている。それは確かにそうかもしれないが、そのツイているアガリに辿り着くための手順を、しっかりと踏めていたのが、今日の醍醐ではないだろうか。
醍醐が試合後の検討配信で、今期限りで近藤誠一が監督が引退することについての想いを、少しだけ語ってくれた。

冒頭にも触れたように、醍醐にとっての近藤は、唯一尊敬できる麻雀プロであり、今所属しているセガサミーフェニックスに入るきっかけをくれた、恩人でもある。
そんな近藤が監督を退任する話を聞いた時、醍醐の胸中には2つの感情があったという。
健康になって、麻雀を打ってくれているのは嬉しい。けれどやはり、このチームを去るというのは、寂しい。
自身でも消化しきれない想いの中、このファイナルの開幕を迎えたと、話してくれた。
ただそんな複雑な想いを抱えた中でも、醍醐自身が今やるべきことはハッキリと分かっている。
共にチームで戦えるのは、今期が最後かもしれないから。
ならば、最後に。醍醐がするべきこと。
一番尊敬できて、恩人でもある近藤誠一監督に、優勝シャーレという、最高の贈り物を届ける事。

悲願の初優勝を果たすことができたなら。
チーム全員で近藤監督を胴上げしよう。
天高く。気が済むまで。
本人に「もうやめてくれ」と笑いながら、言われるまで。
最高位戦日本プロ麻雀協会47期前期入会。麻雀プロ兼作家。
麻雀の面白さと、リアルな熱量を多くの人に伝えるため幅広く活動中。
Twitter:@Kotetsu_0924