その男、名は内川幸太郎。真紅の赤伍萬は烈風に乗って。【Mリーグ2025-26 レギュラーシーズン 観戦記 9/30 第2試合】担当記者 カイエ

メンゼンのイーシャンテンから、ドラの【9ピン】【赤5マン】引きによる打点アップ。一発や裏などの偶然役を狙う手もあったが、内川は果敢にダブ【南】を鳴いていく。
満貫には、手の【赤5ピン】と合わせ、あと1翻が必要だ。

その後、あっさりテンパイ。だが【2ピン】【5ピン】待ちは、ダブ【南】赤で3900点まで。
局後のインタビューで内川は、このまま2着キープも良しと考えていたと明かした。長いレギュラーシーズン。まして内川は、このMの舞台での戦い方を熟知している。通年の勝負所も知悉している。連続連対中と好調が続く風林火山のチーム状況も、打ち手にポイント的な余裕をもたらす好循環となる。

ツモ【2マン】で、亜両面からノベタンの変化もあるところ。
内川は敢然と【5ピン】を切り、【2マン】【5マン】のノベタンに待ちを変えた。

東1局

堀が、あっさりテンパイ。ドラは【4ソウ】で、リーチドラ1の手牌。待ちどりは【1マン】切りの【2マン】【5マン】【5マン】切りの【1マン】【4マン】との比較。見た目枚数で【1マン】が1枚少なく、【赤5マン】もあるため、ノータイムで【1マン】切りリーチを敢行した。
しかしリーチの一発目で、

裏目の【4マン】ツモ。リーチ一発ツモを逃してしまう。
局後のインタビューで堀は、この選択間違いで「厳しい闘いになるな」と思ったと述べていた。生粋の流れ論者を自称する堀のこと、絶対に負けたくないと自らも注目していた内川との対戦ではあったが、早くも嫌な流れを感じていたか。
ただ、あくまでこれは結果論。見た目枚数はともかく、偉すぎる【赤5マン】ツモが可能な待ちどりにするのは、ごく普通の選択だろう。

さあ、ノベタン【2マン】【5マン】待ちの帰趨は…

松嶋桃「真紅の烈風、ここにあり!」
なんと、【赤5マン】は内川の手元に。
盲牌の感触を楽しみ、引き寄せた牌を軽く卓上に叩きつけるように、置いた。
その手は踊っているかのようにも見えた。

ダブ【南】・赤赤の満貫ツモ。
奇跡のトップだった。

思えば、ダブ【南】を鳴いた時点で、満貫になるルートは相当、少なかった。無欲さと余裕が、針の穴を通すような、唯一の逆転条件を満たす赤を引き込んだ。

赤川さん、見参。
まるで、ヒーローのような大逆転劇。
サクラナイツ時代に何度も見せ、堀がそれに感嘆し、興奮した、あの日の主人公が、そこにいた。
堀は、或いはそれを初めて間近で目撃し、体感したのかもしれない。
「ちょっと今日は勝てる日じゃなかったな」と、衝撃的なアガりを魅せつけられる結果となった。
かくして「本日の主役」は決まった。

東1局南4局
堀は【5マン】をツモれず、内川は【赤5マン】をツモった。
円環を描くかのような半荘の結末は、内川の個人3連勝で結びとなり、閉じたのだった。

だが、これは終わりではない。
むろん、これからが始まりなのだ。
風林火山の内川とサクラナイツの堀との、新たなライバル対決の幕開け。

いや、所属している団体やチームにそう意味はないだろう。
これは、プロとプロとの、麻雀を巡り、麻雀を介して行われる、
対話であり、懐古であり、回顧であり、表現であり、エールの交換であり、価値観の衝突であり、祈りであり、互いを賭した存在証明なのだ。

堀との対決をどう感じていたかと問われた内川は、少し緊張したと言った。

内川「負けたくないっていう気持ちも勿論だけど、やっぱこの、長い時間、一緒に麻雀を教えてもらって、うん、すごい堀さんには成長させてもらってると思ってるし、サクラナイツを去る時にね、堀さんが最後にあの、Mの舞台で一緒に闘いたいですねって言ってくれてたので(中略)、一番最初に、堀さんに相談したんで、感無量ですね」

そう語った内川の声は少し震えていて、涙をこらえているようにも見えた。
堀もその言葉を、嬉しそうな照れくさそうな、少年のような表情で聞いていた。

Mリーグ人気の大きな要因として、人間ドラマという側面があると思う。
それは、歴史を重ねるにつれ、分厚い層となる。
たかが麻雀に、人生を投影する。
たかが麻雀打ちに、感動し、勇気をもらい、涙を流す。

◆個人的な話で恐縮だが

わたしがMリーグで泣きそうになったのは、パイレーツの1度目の優勝決定の前後と、近藤誠一の「あの」倍満ツモ、MVP争いを繰り広げた瑞原明奈沢崎誠の局後の握手、そして冒頭の、サクラナイツ優勝決定の前後だった。

今回、あの日のサクラナイツを否が応にも想起してしまい、さらに本局後の内川選手の感動的かつ率直なインタビューで、わたしもまた泣きそうになってしまった。コメ欄にも「泣いた」の文字がちょこちょこ流れていた。欄ズって、わりと涙もろい

そうした想いから、今回は観戦記の枠を逸脱したかのような歪な構成になってしまったのだが、半荘を通して、実に見どころの多い試合だった。

3着に終わった石井一馬は、東2局
自身、ハネマン(【南】【中】ホンイツトイトイ・赤)テンパイの超勝負手からの、堀への親の満貫チャンタ・三色・イーペーコー)放銃が痛かった。

南1局2本場に、好配牌からリーチ・ピンフ・ドラドラの満貫を堀からあがり、ラスを免れるので精一杯。他の3人と比べても、手が入っていない印象だった。新チーム EARTH JETSにとっては、苦しい序盤戦が続く。ドラフト1位の、捲土重来を期待したい

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