その時のうなだれる姿が、この一戦に懸ける想いを何よりも物語っていた。
(今日もダメなのか…)
そんな心の声が、画面越しにまで響いてくるように。
だが、今日は少しだけ違った。
その流れを断ち切るように、どこからか小さな風が吹いたのである。
本日10月24日。
「て(10)に(2)しあわせ(4)」という語呂合わせから、この日は“文鳥の日”と呼ばれているらしい。
フェニックスにとって、その幸福を運ぶ小さな不死鳥が、そっと手のひらに乗ったのは東3局であった。
好配牌から数巡後、その形は静かに整い、やがて一気に羽ばたく。
“てにしあわせを”
まるで、眠っていた不死鳥が再び大きな翼を広げるかのような、力強いマンガンのツモアガリだ。
(とにかく今日は幸運でもいい…。)
まさかの“流れの反転”。
長く続いた重い雲の隙間から、ようやく一筋の光が差し込む。
フェニックス、醍醐大が静かにリードを奪い、南場へと突き進んでいった。
一方で、試合後に“いつもと違う”感情の揺らぎを見せていた者がいた。
それは、麻雀AIの学習モデルにもなっている、渡辺太である。
「この局はアガリたすぎてダメでしたねー。」
そう振り返ったのは東4局。
点況はフラット。
迎えた親番で、太の手にはドラが対子、さらに赤牌が1枚。形もそこそこ整っている。
悪い点を挙げるとすれば、すでに巡目が終盤に差し掛かっていたことくらいだ。
16巡目。
太は
のチーテンを取らなかった。いや、取れなかったのかもしれない。卓上では北家・東城がリーチをかけていたのである。
「リーチの有無は関係ないですね。
切りのところで少考が入っていたので、単純![]()
ターツは無さそうという読みでした。
頭の中では“チーして
切りテンパイ”を取ろうと思ってたんですが、ワンチャンまだアガれるかなって。鼻息フンフンしちゃってましたね(笑)。この半荘の中では、大きなミスの一つです。」
ネット界隈では最高峰の雀士の一人として名を馳せる“ふとっしー”こと太。
データや確率に裏づけられた“平面の情報”だけでなく、こうしたリアルの卓上でしか拾えない“わずかな気配”を読み取る。
そして、それを自然に判断材料へと組み込めるのは、まさに流石の一言である。
ただし、この時の判断はAIには再現できない、人間らしい“欲”だったのかもしれない。
更に、振り返り配信で感情をにじませたのが南2局。
「あー
!うー
!!動じてます(笑)べっ、べつに、悔しくなんか(笑)」
この局の始まりは
勝又の
の一鳴きから。
ここで点数状況をご覧いただきたい。
ラス目とはいえ、トップとはマンガンツモ一回分の差。そして、まだ一段目。人ならば、一枚目はスルーしたくなるだろう。
だが、勝又は迷わず鳴いた。そうさせたのは…
この太の打点もスピードも待ちの良さも約束された、こちらの手牌の存在である。
ドラの
リリースはもちろん、
➡︎
の内切りターツ払いの捨て牌に注視。そして、この局は“間に合ってない”と判断すると、かわし手にシフトチェンジしたのである。
これは勝又が著した新著の名を借りるならば、まさに“軍師の兵法”。
結果的にではあるが、
太にテンパイの入る
を食い上げると、
一発ツモの
を、まるで見せつけるかのように静かにツモ切る。
そして、
・赤















