セガサミーも苦しい順位で、マイナスを2ケタまで戻したいところ。
迎えた南4局、順位はダンラスとまさに崖っぷちの状態。
このまま終わると、トータル7位に転落してしまう。
そこで近藤はをポンして打とした。
他家にプレッシャーをかけ、特に前原の手牌進行を遅らせる狙いだ。
上家の石橋が2着浮上を狙うため、ある程度鳴けるという計算もあっただろうか。
しかし、そこに猛然と索子を押し続ける男が一人…
先ほどの放銃で2着に落ちた瀬戸熊だ。
前回の2連ラスを取り返すために、是が非でもトップが欲しい。
跳満条件を満たすために。4巡目から刻子手に決め打って進めると…
なんと役満・四暗刻をテンパイ。
ツモれば文句無し、で出アガりしてもトップとなる。
瀬戸熊は不退転の覚悟で「リーチ」と宣言。
もちろん近藤も退くわけにはいかない。
苦しいながらもとのシャンポン待ちで清一色の聴牌。
この時点で近藤の待ちは3枚、瀬戸熊の待ち牌は2枚。
勝負は近藤と瀬戸熊のめくり合いに持ち込まれた。
緊迫した雰囲気の中、突如近藤が天を仰いだ。
ドラのを持ってきてしまったのだ。
変則的な河の瀬戸熊に対しては超危険牌。
リーチ・チートイツ・赤1のドラ単騎での跳満も十分にあり得る状況だ。
「ダンラスだから」「親だから」と、を押す理由は確かにある。
「えいっ」と一思いに切る選手もいるだろう。
だがしかし、近藤のリアクションの背後にある葛藤を想像せずにはいられない。
もちろん後に退けない状況なのは分かっている。
しかし、このドラを簡単に切っていいのか。
それが果たして
”近藤誠一の麻雀”
なのか。
放銃したとして、自分は納得できるのか。
その覚悟を決めるため、数秒の時間を要し、近藤は勢いよくを打ち出した。
魂を込めて、命を削って、一打一打を打ち出していく両者。
「くっ…」
小さく唸った黄金の左手には、深紅に輝くが握られていた。
近藤誠一、魂の6000オール。
この日は放銃が続き、心が折れそうになっていたはずだ。
それでも苦難を乗り越えた先に見えた、一筋の光明だった。
この半荘でセガサミーは最下位になってしまったが、
近藤が決死の覚悟でもぎ取ったこの18ptは必ずチームを助けてくれるだろう。
「まだだ…まだ戦える!」というメッセージを十二分に感じた闘牌だった。
この日はMリーグ史上、ベスト3に入るレベルの名勝負であろう。
瀬戸熊と近藤、両者ともリーチに対してドラを勝負した。
一人は18pt分を放銃し、もう一人は18pt分を和了した。
決して結果だけを見てほしいのではない。
両者ともリスク・リターン・自分の信念など全てを勘案して