この現状を打破するには、化けるしかない。
白鳥翔は、金髪になった。服装も派手にした。
周りの反応は「どうしたの?」だろう。
なにが「どうしたの?」だ。ふざけるな。
彼のことを「厨二病」と呼ぶものもいるし、自分でも傾向があると自覚しているだろう。
「厨二病」と同じ読み方で「中二病」というのがある。こちらの方が元祖だ。
「中二病」の方は、思春期に、自分の“理想”と“現実”のギャップを飛び越えるための行動だと思う。これは「自分の中」の問題だ。
一方「厨二病」は、“自分の現実”と“他人の評価”のギャップを飛び越えるための行動だ。これは「自分」と「他人」の問題である・
そのギャップを飛び越えるために“自分があるべきイメージ(理想)”を作り出す。そしてそのイメージに、自分から近づいていく行動。それが「厨二病」だ。
そして白鳥翔は金髪になった。
彼は「自然と金髪になった」というが、それはあながち嘘ではない。金髪になることによって、自分のアイデンティティーを打ち立てた。その行動は「自然」なことだった。
この行動を起こせる人間は、そういない。
「麻雀をするのにそんなことはいらないのでは?」と言われるかもしれないが、麻雀だけではなく人として生きていくために、存在するために、彼は金髪になったのだ。
そしてその行動ができる人間を、Mリーグは求めていた。
もちろん、ただ金髪になっただけでは、それで終わりだ。
彼はもともとコメント力がある。しかも辛口だ。辛口というのは「難癖をつける」「批判的」というわけではない。ストレート、ということだ。
さすがに公式対局で「これって得なんですかね?」みたいなことは誰もいわないだろうが、対局者の選択について、その思考を分析し、評価する。だからすごい手順を見た時、白鳥はワクワクが止まらず、ストレートに興奮する。
Mリーグの解説は、当日対局に入っていないチームのMリーガーが務める。Mリーガーではなく、別のプロがやる方が公平公正の目で見られるのでは、という意見もあるし、それはその通りだと思うが、Mリーガーの個性を見る、という点で、Mリーガー自身が解説をするというのはとても良いと思う。
実際、この解説でMリーガーの考えを知ることができて、私は楽しい。
Mリーグ12/3(月)の解説を白鳥翔が務めた。
その第1回戦の南3局2本場をぜひ見てほしい。白鳥の解説を聞いてほしい。
「なんで?」「こわいこわい」「すごい」
打牌選択の思考、プレイヤーへの尊敬、Mリーグ対戦相手としての畏怖。それがこの言葉にすべて入っている。もちろん、この言葉の後、きちんと解説をしている。
そしてこの解説を聞けば、彼は麻雀が執拗に大好きだということが伝わってくる。
2018年Mリーグの実況名場面第1位だと、私は思う。
そしてこの実況は、ひとつの新しい形、つまり「白鳥翔オリジナル」だ。
この表現を出せるようになったのは、渋谷ABEMASに入ったからこそかもしれない。彼はいやがおうにも自分を表現しないといけない場所にきてしまった。
そしてMリーグ・ニュージェネレーション代表、ドラフト3位松本吉弘。
白鳥翔はドラフト2位だ。
分かりやすく言えば、社会人ドラフト1位の即戦力、多井隆晴。大学卒のドラフト2位の白鳥翔。高校卒の未来のエース・松本吉弘。
白鳥は挟まれてしまった。いわば「中間管理職」だ。
周りに気を配ることと、伸び伸びと打つこと、両方求められる。「即戦力」であり「新世代」、この2つの役目を果たさないといけない。それを考えていたら、髪色もツートーンの「ヒカルの碁」状態になってしまって当然だ。
でもうかうかしていたらチームメイトふたりに挟まれ、自分が埋没してしまう。また「無個性」になってしまう。
このような葛藤はMリーグが終わるまで続くだろう。いや終わっても続くかもしれない。その葛藤が終わる時は、白鳥が次のステージに立った時だ。
そのステージに行くために彼は「魔法少女」という新しいコンセプト、アイデンティティーをぶち上げた。
私も中二病で厨二病なのでよく分かる。
「じゃあ、魔法少女ってどういう意味だ?」
そう質問されても、答えられない。
“魔法少女”というのはそのままの意味だからだ。魔法少女を目指すことによって、彼は自分が「覚醒」すると信じている。この「信じる力」こそ、彼の大きな武器だ。自分は「みにくいアヒルの子」ではなく「白鳥」なのだと、アヒルの時からずっと信じていた。この「信じる力」で、彼は傷を作りながらも何段もステップアップしてきた。
この「魔法少女」発言はかすり傷ではすまない。
大ヤケドだ。だけど、彼は自分は魔法少女だと信じている。大ヤケドのリスクを背負ってでも、Mリーグに秘密の魔法をかけるため、魔法少女になるのだ。
正確に言えば、彼は「魔法少女になる」というコンセプトを見せて、行動したいのだろう。魔法少女が活躍する「ライトノベル」をみたいのだろう。
話の冒頭に戻る。
私は2年以上、数多くの麻雀漫画の原作を持っていき、結局漫画にはならなかった。
そして思う。
その漫画原作は、自分が書きたかったものか?
漫画になること第一で、編集者のアドバイスをそのまま直す「原作マシン」となっていたのではないか?
どうして、編集者のアドバイスを越えるような原作を書こうとチャレンジしなかったのか?
――だって、ダメになるのが怖かったんだもん。
厨二病の自分がいう。
そしてその部分は、私は今でも持っている。
私も魔法少女になりたい。いろんな常識を乗り越えて、自分が楽しいと思い、その姿を、笑われながらでもいい、楽しんでほしい。
感動してほしい、とは思わない。でも、なにかを感じてほしい。
白鳥が魔法少女になった時、それは白鳥翔が新しい「スタンダード」を作った時だ。そしてそのスタンダードが完成した時、白鳥はたぶん、もうそこにはいない。