鬼の形相で場を見つめを打つ。
この局の苦悶の表情が印象的だったとの声を多くいただいたが、こんなに顔を抜かれているとは知らず、カメラワークの素晴らしさを後から見て知った。
1つの対局の価値を極限まで高めるために、どれだけ多くの人が携わっていることか。
裏方さんに感謝し、あらためて幸せを実感する。
そして次にツモってきたのは
だった。
先ほどと違って、2筋勝負する必要があることがネックだ。
私も迷いに迷った。
どこかでリスクを背負って前に出ないと、こういう短期決戦で頂点に立つことはなかなかできない。それは今なのか、それとも…
私はほぼほぼ通ると思っていたを抜いた。
やはり園田プロのアガリは展開的に悪くないのだ。
カンまでしておいて、は押しておいて、安全牌がないのに、オリる。
ともすれば周りからは中途半端に見えたかもしれないが、私からするとその場その場で最善を尽くしているつもりだ。
結果的にあとのない石川プロが園田プロにマンガンを放銃し…
このような点差になった。
園田賢 26500
ZERO 27400
石川遼 16400
蛯原朗 29700
トップの蛯原プロまで2300点。
蛯原プロもノーテンが許されず、さらにアガリヤメもない状況。かなり苦しいはずだ。
このオーラスは一生忘れられないだろう。
私は
このような配牌から順調にタンヤオ牌をかき集め、6巡目には
こんなイーシャンテンになっていた。
そこへ上家の園田プロからが打たれる。
ここは鳴こうかどうか迷っていた部分だ。
現在カンチャン2種受けのイーシャンテン。
をチーすると…
チーの6種受けに増える。
園田プロも前に出てくる局面なので、チーして絞られるというデメリットは薄いだろう。
これだけ考えるとチーした方が良さそうなのだが、点差が2300点なので鳴くとツモ直条件が発生してしまう。
さらにメンゼンのままでも受けの広がるツモは10種類以上存在する。
私は迷った末に
カンチャン2つの手ごたえが全くないことを理由にチーに踏み切った。
その後、私の有効牌は下家に流れ、テンパイすることさえできず…
蛯原プロの6000オールが生まれてしまった。
先ほどまで幸せな場所にいて、頂点に手が届きそうだったのに、いきなり足元が崩れ落ち、真っ暗な闇に吸い込まれてしまった…そんな、感覚。
遠のきそうになる意識をなんとか戻し、条件を再度確認すると、逆転には三倍満以上のツモアガリが必要だった。
オーラス、形作りの役満を狙っているときにようやく思考から解放され、緊張感が抜けていくのを感じた。
「ああ…もう終わっちゃうんだな…」
静寂の中、一挙手一投足を拾うように聞こえてくるカメラのシャッター音。
上家にはモニター越しで何度もみたMリーガー、園田賢。
幸せな時間は長く続かなかった。
麻雀は残酷だ。
1人の勝者のために何千人といる敗者全員が辛い思いを経験する。