松本は決心したかのようにを打ち出した。
そして次巡。
役牌のを重ねて、切り。
苦しい手牌の中で、唯一のリャンメンターツを払っていった。
ここまで手牌が悪いと、どう打ってもほぼ間に合わない。普通に字牌から処理してを仕掛けていって運良くイーシャンテンになるころには先制リーチを受けるだろう。
それならば半分オリ気味に打ちつつも、ホンイツ・トイトイ・国士…などの高くなるルートだけは逃さないように打つ。これが松本の選んだ道だ。
(今、自分にできることを着々と…)
秘めたる松本の思いに呼応するようにツモが押し寄せる。
2つ仕掛けて…
このテンパイ!お手数だがもう一度さきほどの配牌を見てほしい。
こんなマンガンが見える最終形になるとは松本も予想していなかったはずだ。ツモは偶然だが、その偶然を捉える準備をしていたのは松本の技術であり、確固たる意志だ。
松本はよりよい準備をして戦える手牌を作ったが…
この局は3人テンパイで流局した。
1人ノーテンだった園田の選択も光った。
牌図で見てもらいたい。
(牌図はトガシの麻雀X研究所様(https://mahjong-x.com/mleague-paifu-2019/)より引用)
園田はこのをチーした。
これはケーテンを取るため…ではなく、ハイテイをずらすため、である。
現状、ハイテイは南家の松本だがチーするとリーチ者の萩原にハイテイが回る。このハイテイずらしの意図がわかるだろうか?
これは、3人テンパイが濃厚だからである。リーチ者の萩原はもちろん、仕掛けてを押した松本、その松本に対してと切っていった滝沢の3人テンパイが推測できる。
つまりノーテン罰符による3000点の支出が濃厚な状況と言えるのだ。それならばチーすることによって、巡目を引き伸ばし、横移動の可能性を高めたほうがいい。横移動すれば支出は0点だ。また、萩原にツモられてしまっても支出が3000点を越えることはそうないだろう。
ちなみに誰でもこれくらいの鳴きはする。しかし、園田の本当に恐ろしいのは…
ここらへんからそのハイテイずらしを想定していることだ。
園田はこの手牌で長考していた。オリるには困らない手牌だ。
この長考の意味がわかったのは視聴者の中でも1%もいないと思う。
園田は後のハイテイずらしに備えて、なるべく鳴ける形を維持したかったのだ。
例えば、今通ったを切るのは簡単だが、やが出たときにチーできなくなってしまう。
ピンズも同様。
できればわずかなケーテンも睨んで、やあたりを切りたかったはずだが、かなり通りそうとは言え、一応通っていない牌だ。「ハイテイずらしの準備」のために勝負するに見合うかどうか…をずっと考えていたのだ。
園田も松本同様苦しんでいる打ち手の1人だ。昨年、ドリブンズ優勝に大きく貢献した園田は、卓上の魔術師としての地位を確立し、その技術の高さを万人に認めさせた。しかし今季は、これまでに14試合を打ち、-18.9と苦戦している。勝っているうちはマジックと言われても、負けが込みだすと「園田は小手先の技術に長けているがー」と、結果で判断される可能性があるのが辛いところだ。ビッグタイトルに縁がない園田だけに、そのような焦りがない、と言えば嘘になるだろう。
しかし、それでもその結果を出すためには一打一打を丁寧に打つしか無い。
「一打一打を丁寧に」はありふれたセリフだが、一打目から最終打まで本当の意味で気を抜かず打つのは大変だ。そういう意味で園田は「魂を込めて最後まで丁寧に打っている」と言えよう。
東1局1本場
横に置かれている親の滝沢のに、松本が固まった。
をポンしている松本は、このをチーしてドラのを切れば一応バック(後付け)のテンパイ。
バックテンパイの押し引きは非常に難しいが、相手は泣く子も黙る親リーチだ。渋々スルーして、恐る恐るを並べるのが普通だろう。
しかし、リーチの待ちは絞り込めず、またオリきれる保証はどこにもない。
加えてアガリ辛いとは言え、がこぼれれば2000点+2300点(供託・本場)でそこそこの収入となる。何より親リーチを蹴ることが大きい。一発が消せるのもポイントだろう。
(本当にこんな手で向かっていいのか?多井さんならどうする?俺の麻雀はどうだった?)
松本も迷いに迷った。
これが放銃に回るなら今日も苦戦しそうだ。でも、もし、これがアガれたのなら、何かが、何かが変わるかもしれない!松本は、現状を何とか打破しようと、もがくように…
をチーしてドラのをぶった切った!
松本吉弘、運命を賭けためくり合い!
しかし、安全牌が全くできないまま、→→と押したところで…
そのがドッスンバリバリ(ロン)
松本としても、このがファイナルプッシュだったに違いない。