と言うお姉ちゃんが連れて帰ってきた犬は確かに大きくどう考えても室内で飼うような犬ではなかったがそれ以上に様子がおかしかった。
みなさんは全く動かない犬を見たことがあるだろうか?
百恵ちゃんはある。テレサは全く歩かなかったのでお姉ちゃんに抱き抱えられて田渕家にやってきた。そして到着するも四つん這いのまま一点を見つめ異常に震えだし何もかもを垂れ流したまま数時間以上動かなかった。保健所でも出生はわからなかったらしく、野良犬がいるという情報からテレサを見つけ出すも1ヶ月以上逃げ回っていたらしい。何歳かもわからないし素性のわからない犬だった。
“テレサ野性説”、
“テレサ、ロシアから来た説”
等、色々な憶測が飛び交ったが結局のところは何もわからなかった。
テレサはお姉ちゃんからの深い寵愛を受けた。お姉ちゃんは愛車のナンバーを『1003』にしていたし魚肉ソーセージを買ってあげたいからと言ってアルバイトにも行っていた。
どんなトラウマがあるのかは知らないが花火大会の音に驚いて失禁しながら逃げてしまったり犬のくせにずっと忍び足で歩いていたがお姉ちゃんの愛情でテレサは犬らしい犬になった。
写真はテンションのあがったお姉ちゃんとそれを見守るテレサである。
ほったて小屋
百恵ちゃんの麻雀は劣悪な環境で培われた。
大体麻雀をする時は“おいちょ”と呼ばれるお姉ちゃんの同級生の家だった。おいちょの家はボロボロの平家の市営住宅だったのだが周辺は元々かなり治安が悪く普段はスーパー放置プレイだった母が
「絶対に行ったらだめ」
と言っていた地域だった。
お姉ちゃんはそこを滝川市のスラム街と呼んでいたし、何があったかは知らないが市内全域配達可能のはずのピザの配達がその地域だけ断られていた時期まであったらしい。百恵ちゃんが成人する頃には治安はすっかりよくなっていたが初めて足を踏み入れたときはちょっぴりドキドキした。
おいちょの家は家賃が1LDKで8000円という激安物件だったのだが更に
“周辺の雪かきをする”
という謎の条件の元、5000円に値下げされていた。
家賃5000円の家に全自動麻雀卓などあるはずもなく、手積みだった。北海道の田舎の冬は遊ぶところも殆どなく、麻雀くらいしかすることがなかったため
「誰かの肩が死ぬまで」
という地獄の様なタイムテーブルで行われていた。
朝の5時から仕事に行き帰ってきては麻雀をし完徹を5日乗り切ったおいちょ、頑なに単騎にするカドワキ、永遠に終わらない麻雀に発狂して窓から飛び出していくタムラ、人の家に中型犬を連れて行くお姉ちゃん、運が付きますようにと犬のおしりを触り出すサッチャンなど個性的なパーティーメンバーだった。
何年ものあいだ、おいちょ宅で麻雀をしたがあの頃の麻雀修行は百恵ちゃんの今の麻雀に全く生きていない気がするが今でもを切るときに少しビビってしまうのはあの頃のトラウマかもしれない。
次回は1月2日(木)午前0時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!